座談会 新たな総持学園へ向けて 〜進む学園改革〜

少子化による学齢人口の落ち込みなど、私学を取り巻く環境は
厳しさを増す一方です。この苦境を乗り越えるため、
学校法人 総持学園では大学から幼稚園まで学園全体の検証を行い、
魅力と活力あふれる新たな学び舎の創造へ向け、
学園の再構築に全力で取り組んでいます。
そうした中、昨年7月には学園の新理事長として、
大本山總持寺監院の乙川暎元老師が着任。
改革の先頭に立つ乙川理事長と鶴見大学・同短期大学部の木村清孝学長、
大学附属中学校・高等学校の中川光憲校長のトップ3人に、
学園の将来像を展望してもらいました。

─初めに乙川理事長にうかがいます。総持学園の新理事長に就任されて、ほぼ8カ月になりますが、今の心境はいかがですか。

乙川 学齢人口の減少に伴い、私学はどこも困難な状況の中にあります。本学園も決して例外ではありません。
 そうした中で、理事長という大変な職務を担うことになったわけですが、日々、責任の重さを痛感しています。

学園の再構築へ まず危機意識の共有を

─総持学園は今、大学から幼稚園まで全学を挙げて、再構築の真っただ中にあります。この点については、どのようにお考えですか。

乙川 理事長に就任して日が浅く、まだ再構築の全体像を十分には承知していませんが、学園を取り巻く様々な困難を乗り越え、本学園のさらなる発展をめざす上で、再構築は避けて通れない道です。
 活力にあふれ、時代にマッチした魅力的な学び舎に生まれ変わるため、今回の改革は何としても成功させなければなりません。
 再構築が成功するか否かは、ひとえに本学園の教職員一人ひとりが、どこまで危機意識を共有できるか、にかかっています。まず学園の現状を正しく認識して、危機意識を深めていく。そこを原点に、外部の専門家の知恵も借りながら、全学一体で学園改革を推進したいと考えています。

小委員会と3つのワーキンググループで再構築策を検討

─ところで、学園の再構築は、どのような形で進められているのでしょうか。

木村 再構築の取り組みが本格的に始まったのは、ほぼ3年前からです。志願者減による本学歯学部の定員割れが直接のきっかけとなり、大学・短期大学部はもとより、附属中学校・高等学校、附属幼稚園まで学園全体の在り方を見直し、改革を進める機運が大きく盛り上がりました。
 これを受けて、学園の中に既にあった将来計画委員会の下に、新たに「再構築小委員会」を設置。さらに「基本問題」「教育・研究システム及び学修支援」「社会貢献・地域連携」の各分野について、具体的に検討していくため、3つのワーキンググループを設けました。
 それぞれのワーキンググループで、様々な問題について、全学的な視点から鋭意、討議を重ねた結果、昨年3月に再構築小委員会・ワーキンググループの最終答申がまとまり、理事会で承認されました。
 現在はこれを受け、新たに設置された「再構築推進委員会」で、答申内容を具体化し、まとまった再構築策を早期に実施に移していく取り組みが行われています。

広範囲に及んだ検討項目

─各ワーキンググループでは、それぞれどのような問題が検討されたのですか。

木村 検討項目は多々あり、広範囲に及んでいます。
 例えば「基本問題検討ワーキンググループ」では、建学の精神や学部学科の改組・再編、キャンパス内の施設・設備の整備、事務組織の再編、大学センター化構想など、多岐にわたる問題について討議・検討を重ねました。
 「教育・研究システム及び学修支援検討ワーキンググループ」では、カリキュラム改革をはじめ、国際交流の推進、キャリア教育の充実、課外活動の活性化、全学共通教育、高校・大学の連携強化などを検討テーマとしました。
 また「社会貢献・地域連携検討ワーキンググループ」で取り上げたのは、学園と地域社会の連携、生涯学習センターの設置、同窓会との連携推進など。3グループを総合すると、検討項目は優に30を超えています。

建学の精神「大覚円成 報恩行持」に現代語訳

─確かに大変な数ですね。その中でも、喫緊の課題として、特に重点的に検討が加えられたのは、どのようなものですか。

木村 真っ先に検討の対象となったのは、教育の根幹を成す「建学の精神」です。
 本学には、禅の教えをベースにした「大覚円成 報恩行持」という立派な建学の精神があるわけですが、表現が難解で、今の学生には理解しにくい。もっと簡明で、親しみのある現代的な表現にできないか、との意見が前々からありました。
 そこで、私が現代的表現の原案作成を担当し、“翻訳”作業に当たりました。その結果、本学の学生や附属中学校・高等学校の生徒の意見も参考に、「大覚円成 報恩行持」の現代語訳として、「感謝を忘れず 真人となる」「感謝のこころ 育んで いのち輝く 人となる」の二つの採用が決まりました。
 今後は「大覚円成 報恩行持」と、二つの現代的表現を併用することで、本学のめざす教育理念がより明確になり、内外への発信力が強まるものと期待しています。
 それともう一つは、再構築の契機になった歯学部問題です。これについては歯学部歯学科と別に「新たな学部学科の開設を」との意見もありましたが、当面は現状どおりとし、歯学科の教育の質向上に全力を注ぐことになりました。ただ入学定員は120人と、従来より25%削減しています。

国際交流や先制医療研究センターを新設

─再構築策を検討する中で、既に具体化したものも、いくつかあるそうですね。

木村 はい。まず一つは「国際交流センター」の新設です。本学の国際交流は、各学部の主体性に委ねられてきましたが、全学的にその推進を図るねらいから、平成22年秋にセンターを開設。本格的な活動が始まっています。
 歯学部関係では、「先制医療研究センター」が新設されました。このセンターは産学官の連携により、再生医療など時代の最先端をいく医療の研究開発を行い、併せて次代を担う優秀な若手研究者の育成などをめざします。昨年11月に設立記念シンポジウムを盛大に催し、センターの門出を祝いました。
 また事務局の再編に伴い、入試業務とキャリア教育を一体化した「入試キャリアセンター」を設置。就職を見据えたキャリアアップを中心に、入学から卒業まで、学生を一貫してサポートしていく体制を整えました。
 このほか、社会貢献の一つとして実施している生涯学習セミナーが好評で、大学基準協会の認証評価でも高い評価を得ています。そこで、事業をさらに発展させるため、新たな組織を設置することも検討中です。

─附属中学校・高等学校の中川校長は、再構築小委員会・ワーキンググループの委員の一人として、当初から再構築問題に関わっています。これまでの議論・検討をとおして、どのような感想をお持ちですか。

中川 今回の再構築をめぐっては、実に様々な論議が交わされました。ただ率直に言うと、もっと学生・生徒の視点からのアプローチが必要ではないかと思います。
 言うまでもなく、学園の主役は学生・生徒です。彼らが楽しく伸び伸びと、心豊かで充実した学園生活を送る上で、本学園には今、何が足りないのか。ハード・ソフトの両面から、より良い教育環境づくりを進めていくことが大切ではないでしょうか。
 今の話に関連して、ひとつ感想を述べさせてもらうと、本学園の場合、キャンパスの中で学生と教職員がフランクに語り合ったり、ふれ合う光景があまり見られません。これは建物の配置やキャンパス内の動線にも問題があると思います。
 再構築では、ぜひこうした点も見直し、学部学科や学年のワクを超えて、学生同士、あるいは学生と教職員がもっと気軽にふれ合えるような一体感のあるキャンパスが実現するといいですね。
木村 それはとても大切なことですよね。現在、学生の視点からのアプローチという点では「学長ポスト」が一定の役割を果たしていますが、不十分です。

学園を「真人を育てる未来空間」に

─では最後に、総持学園とその中核を成す鶴見大学・同短期大学部、さらに附属中学校・高等学校それぞれの将来展望を聞かせてください。初めに中学校・高等学校からお願いします。

中川 私たちはまず中・高6年間の一貫教育にしっかり取り組み、そのメリットを最大限生かして、頭と心、体のバランスのとれた人間教育を徹底させたいと考えています。
 その一環として、中1・2、中3・高1、高2・3をワンセットにした3ステージ制の新しい教育システムを導入し、学力をはじめとする教育効果の向上に努めています。この制度も導入から丸2年が経ち、かなり定着してきました。
 また本校では、「学力向上」「人間形成」「国際教育」の3つを教育の柱に掲げています。学力向上では、模擬テストを頻繁に実施するなど、新しい試みを次々と取り入れています。国際教育では、20数年中国・杭州市学軍中学と交流を行っていますが、6月に初めてアメリカ・サンタクララの公立高校の生徒10数名を受け入れ、さらに来年からは中3生徒のオーストラリア修学旅行として、農場体験をしてもらう“ファームスティ”なども予定しています。
 そして人間形成では、建学の精神を踏まえ、思いやりと優しさを持ち、社会の荒波の中でもしっかりと生きていける“真人づくり”に全力を傾注したいと考えています。

─大学の方はいかがでしょうか。

木村 実は、本学園の中・長期計画(平成23〜27年度)を策定する際に、あえて副題として「真人を育てる未来空間」の言葉を入れていただきました。
 「真人とは何か」と言うと、単なる知識ではなく、豊かな感性と知性に裏打ちされた“総合的な人間力”の持ち主のことです。本学はまさにこの真人を育成する未来空間であり、この点を常に肝に銘じながら、建学の精神をベースに、優れた人間教育に取り組むつもりです。
 また、来年は大学の文学部が創立50周年、短期大学部が同60周年を迎えます。これを一つのステップに、大学と短期大学部の魅力アップに努め、さらなる飛躍をめざしたいと考えています。

大本山との結び付きを生かし新たな特色づくりを

─乙川理事長は学園の将来ビジョンについて、どのようにお考えですか。

乙川 本学園はそもそも女子教育から出発し、以前はそれが大きな特色でした。
 ところが、時代の流れとともに、男女の共学化が進み、最近はこれといった特色がなくなってきたように思います。そこで、新たな特色をいかに創造していくか。その点が、これからの大きな課題ではないでしょうか。
 それに関して、ひとつ具体的なことを言えば、本学園は曹洞宗の大本山である總持寺が設立した学校です。しかも、大学のキャンパスの大半が本山の境内の中にあり、学園と本山は文字どおり一体的な関係にあります。
 そこで、こうした両者の結び付きを生かし、今後は学園の教育の中に、曹洞宗の教えをもっと色濃く反映させてもいいのではないか。
 それが本学の特色の一つとなり、ひいては本学園がめざす“真人づくり”の教育にとっても、必ずや大きな力になり得るであろうと、私は確信しています。

─ありがとうございました。

 

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