鶴見大学は本年度、大学が創立50周年、短期大学部が創立60周年を迎えました。
これを記念して、去る6月22日(土)には同窓会との連携により、
ホームカミングデーを開催。また11月16日(土)には記念式典を催して、
節目の年を盛大に祝い、記念誌を刊行しました。
こうした周年事業の一つとして、今回のキャンパスナウは、
ゲストに林文子横浜市長をお迎えし、木村清孝学長と、本学の教育とその特色、
横浜市の保育・教育行政、大学と行政の連携、将来展望──など、
幅広い分野について語り合っていただきました。

 

学長 本日は「対談」ということで、お忙しい中、貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。自由で、ざっくばらんな対談にしたいと思いますので、よろしくお願い致します。
市長 こちらこそよろしくお願いいたします。私も木村学長との対談を本当に楽しみにしておりました。

建学の精神に沿った「人間教育」

学長 鶴見大学は今年、大学が創立50周年、短期大学部が60周年という節目の年を迎えました。そこで初めに、本学のプロフィールを簡単に紹介させて下さい。
 本学は曹洞宗の大本山・總持寺が設立した大学です。まず昭和28年に、国文科のみの鶴見女子短期大学としてスタートし、その後、保育科と保健科(現、歯科衛生科)を併設しました。
 さらに38年に、4年制の鶴見女子大学を開設して、文学部を設けました。45年には大学に女子のみの歯学部を増設。3年後の「鶴見女子大学」から「鶴見大学」への改称に伴い、まず歯学部が、その後文学部も男女共学になりました。
 ちなみに、本学では短大・大学の創立以前の大正時代に、女学校を開設しています。そこから数えると、90年近い歴史があり、横浜における高等女子教育の草分け的な学校であると自負しています。
 現在は短大・大学のほかに、附属の幼稚園、中学校・高校、大学院を持つ総合学園として発展し、大学のキャンパスには、全国から集まった約3200名の学生が学んでいます。
 ざっと以上が本学のプロフィールですが、林市長は鶴見大学に対して、どのような印象をお持ちですか。
市長 大学創立50周年、短期大学部創立60周年、誠におめでとうございます。鶴見大学と言えば、總持寺の境内にある緑豊かなキャンパス、禅の精神に基づく人間教育、市内唯一の歯学部を擁していらっしゃることなどが浮かびます。
 また日頃から、「横浜市民大学講座」など市民向けの生涯学習講座を数多く開催していただくなど、地域や社会への貢献活動を活発に行っていただいていることも大きな特徴かと思います。
 9月にみなとみらい21地区で開催された「ヨコハマ大学まつり」では、実行委員会のメンバーとしてご尽力いただきました。当日は、化石の発掘体験や虫歯クイズなど楽しい催しを開催していただき、大変好評で、本当にありがとうございました。
 ところで、鶴見大学は女子大学として創設され、後に歯学部を新設されていらっしゃいますが、なぜ歯学部を設けられたのですか。
学長 最大の理由は、時代の要請と地域の特性です。歯学部を新設した昭和45年当時は、全国的に歯科医師不足が深刻で、その養成が急務でした。
 また横浜は、大都市なのに歯科大や歯学部が全くない。そうした事情に加え、いのちの教育を大切にする本学の建学の精神にも合致するということで、新たに歯学部を作ったわけです。
市長 「いのちの教育を大切にする」建学の精神に沿った、お取り組みだったのですね。鶴見大学の建学の精神とは、具体的にどのようなものでしょうか。
学長 曹洞宗の禅の教えに基づく「大覚円成 報恩行持(だいがくえんじょう ほうおんぎょうじ)」を建学の精神に掲げています。
 これは簡単に言うと、「人としてこの世に生まれたことに感謝し、すべてのものに愛情や慈しみの心をもって接しながら、正しい知恵を修得し、人格を完成させる」といった意味です。
市長 感謝を忘れず、いのちを大切に、人間性を深めていこうという教えは、学生に限らず、すべての人に通じる素晴らしい考え方ですね。心に響く言葉ですが、今の学生の皆さんは、すんなり理解されていますか。実感をもって、日々の教えとしてもらうのには、工夫が必要かもしれませんね。
学長 そうなんです。そこで現代的な表現を用い、もっと簡潔で分かりやすい内容にするため、数年前に“翻訳”作業を行い、新たに二通りの現代語訳を作りました。
 それが「感謝を忘れず 真人(ひと)となる」と「感謝のこころ 育んで いのち輝く 人となる」です。現代語版には、「感謝」「いのち」「人」を、キーワードとして織り込みました。
 ちなみに“真人”は「真実の人」「まことの人」の意味で、今は本来のものと現代語版の両方を使って、建学の精神の浸透を図っています。
市長 現代語版の「真人となる」というのは、とても奥深い表現ですね。私自身、真心を尽くして、お相手に寄り添い、共感と信頼の関係を築いていくことを、日頃から大切にしています。
学長 ありがとうございます。本学では、この建学の精神に沿い、それぞれの専門分野における知識や資格をしっかり修得した上で、心豊かで優しく、人間力に富んだ学生を育てる「人間教育」に力を注いでいます。
 また、学生一人ひとりの長所や個性を目いっぱい伸ばす「オンリーワン教育」も本学の特色の一つです。
 ところで、最近は世の中が殺伐とし、人の心がすさんでいる気がしてなりません。このような時代だからこそ、心豊かな人を育てる人間教育がとても重要になってくると思うのですが、市長はどのようにお考えでしょうか。
市長 おっしゃる通りだと思います。心の豊かさというものをぜひとも育んでいきたいですね。
 私は、人は人によってしか育てられないと考えています。意味があって人に出会い、自分の人生が拓かれます。若い人たちには、多くの人との出会いを大切にし、その出会いから多くを学んでほしいと思います。また、変化のスピードの著しい時代だからこそ、人間性を磨いていくことが重要です。
 例えば、文化芸術は人間性を豊かにし、教養も高めます。好きな音楽を聴く、好きな本を読むことで、厳しい環境にあっても、疲れた心を癒すことができます。特に若いうちに、多くの本を読んでほしいです。
 さらには、横浜の街に出て、様々な体験をして、多くの人と出会ってほしいと思います。横浜にはそうしたことを実現できる場所がたくさんあります。見識を深め、様々な経験をしてほしいですね。

自分の可能性を信じて困難な道に挑戦

学長 本学には、新入生を対象にした「一泊参禅会」や「釈尊降誕会」「成道会」など、いろいろな仏教行事があります。これは他の大学にはあまり見られない、本学ならではの特色の一つで、学生たちは、こうした催しを通して、人格を磨いています。
 また總持寺の境内には「歯塚」があり、毎年、歯学部や短期大学部の歯科衛生科の学生たちが参加して、歯の供養祭を行います。その際は、私が導師の役を務めるんですよ。
市長 總持寺では、さまざまなご供養を執り行っていらっしゃいますが、「歯塚」もおありなのですね。木村学長は学長であり、仏教学者でいらっしゃると同時に、僧侶でもいらっしゃるんですね。
学長 はい。もともとが函館にある曹洞宗の寺の子で、大学では哲学を学び、さらに大学院でインド哲学を研究しました。専門は華厳学です。 
 私が得度して、仏門に入ったのは小学生の頃。大学院修了後は、大学で仏教学や哲学などを教える教員をしていましたが、父が亡くなる少し前に、寺を継ぎ、住職になりました。今は鶴見と函館を行ったり来たりしながら、学長と住職の“二足のワラジ”生活を続けています。
 市長も民間企業の経営トップとして、辣腕を振るわれるなど、多彩なキャリアをお持ちですよね。
市長 ええ、さまざまな職業を経験してまいりました。18歳で当時の花形企業である繊維メーカーに就職したのですが、当時は男性をサポートするお仕事しかさせてもらえませんでした。男性と同じように責任ある仕事がしたくて、転職を繰り返し、30代でホンダの自動車販売店でセールスの仕事と出会ったことが転機となりました。男性中心の業種でしたが、女性ならではの共感力を生かした営業でトップセールスを達成したのです。
 その後BMWの支店長職を経て、ライバル会社のファーレン東京(現フォルクスワーゲン東京)の社長にスカウトされました。さらに、BMW、ダイエー、東京日産自動車販売と、4つの会社で経営のトップを経験してきました。
 自分の可能性を信じてあえて困難な道を選んで挑戦し続けてきました。
学長 そうした遍歴の延長線上に、「横浜市長」という選択肢があったわけですか。
 その前に、遅くなりましたが、このたびは再選おめでとうございます。
市長 ありがとうございます。市長を志したのも大きなチャレンジでした。私はこれまでずっと男性優位の社会で働いてきました。女性初のセールスマン、初の支店長、初の社長として、前例がなく、ロールモデルもいない状況で、自ら道を切り開いていくしかありませんでした。
 男性も女性も、それぞれの強みを生かして活躍できれば、もっと豊かな社会になる、男性中心の社会で苦しんでいる女性をサポートしたい、後進を育てたい。そのために私の経験が生かせるのでは、と考えて立候補を決心しました。

次代を担う子どもたちの教育

学長 本学の短期大学部には、保育科があり、保育士や幼稚園教諭など保育のスペシャリストの養成にも力を入れて取り組んできました。
 保育科は、創設から半世紀以上の長い歴史と伝統を持ち、今も多くの卒業生が、地元の横浜や県内はもとより、全国各地の保育の現場で活躍しています。
 横浜市も、保育行政には大変熱心ですよね。林市長になられてからは、とりわけ「保育所の待機児童ゼロ」をめざした取り組みを推進され、“横浜方式”として高く評価されています。
 わが国の少子化は今後も進み、やがて人口減の時代がやって来ます。そうした中で、保育を含め、次代を担う子どもたちの教育が非常に重要になると思うのですが、市長はどのようにお考えですか。
市長 教育は、社会にとって、もっとも重要なインフラであり、子ども達が、創造力や感性を育み、まさに生きる力を身につけて成長し、有為な人材として活躍してもらうことが、横浜、さらには日本の未来をつくると思っています。
 私は、市長就任以来、子どもを安心して生み育てられる横浜を実現することを、緊急かつ重要な施策として取り組んでまいりました。
 今春達成した保育所待機児童ゼロも、男性も女性も仕事と子育てを両立でき、子どもの健やかな育ちを社会で支えたいという思いで、現場の力を結集して成し遂げたものです。
 今後も、待機児童「ゼロ」を継続しながら、切れ目のない子育て支援を充実させていきます。また、子どもたちが伸び伸びと心豊かに成長できるよう、教育環境の整備も引きつづき進めてまいります。

“地域に開かれた大学”をめざして

学長 話は変わりますが、本学では“地域に開かれた大学”をめざして、いろいろな試みを実践しています。
 例えば、その一つが「生涯学習セミナー」です。これは地域貢献の一環として、大学の教育・研究の成果を広く社会に還元することを目的に、平成9年からスタートしました。今では文学や歴史・文化、宗教、語学、健康・スポーツ、趣味など年間の講座数が160を超え、大変バラエティーに富んでいます。
 また、講座の多彩さとともに、会場の大学会館がJR鶴見駅から徒歩で数分の近距離にあり、大変に通いやすいことから、地域の方々にとても喜ばれています。
 さらに、大学のグラウンドを開放し、大学が主催する「鶴見大学杯少年野球大会」も、昨年から始めました。このほか、4月にはお釈迦様の生誕を祝って、大学内で「はなまつりコンサート」を開催。毎回、市民の方々も大勢いらして、大学関係者と一緒にクラシック演奏などを楽しんでいます。
 それともう一つ、地域に開かれた大学の重要な核になっているのが、歯学部の附属病院です。毎日、地域の患者さんが数多く来院し、診療を受けています。
 附属病院は平成13年に、全国に先駆けて、国から「開放型病院」の認可を受けました。それ以来、地域の歯科医との“病診連携”を密にし、開業歯科医から紹介された治療が難しい患者さんの受け入れなども積極的に進めています。
 また附属病院では、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)と協力し合い、日本に難民申請中の外国人を対象に、無料で歯科診療を行っています。こうしたサービスも、地域に開かれた大学の責務の一つと考えています。
市長 素晴らしいお取組ですね。大学は、教育と研究という使命に加えて、社会情勢の変化とともに、新たな使命が求められているのですね。
 大学が持つ最先端の研究成果や人材といった知的資源、充実した施設などを活用して、地域課題の解決や、生涯学習や地域活動の機会の提供など、市民や地域の要望にお応えいただくことが期待されます。
 そういった意味でも、鶴見大学様が地域で果たす役割は、大変重要なものになっているのではないでしょうか。
学長 付け加えさせていただきますと、本学では学生たちのボランティア活動も盛んです。
 2年前の東日本大震災の折には、歯学部の学生が中心になり、いち早く学内で被災地支援の学生ボランティアチームを立ち上げました。気仙沼の小学校での学習支援が主なものです。大学側もこれをバックアップし、現在はより大きな輪となって、夏休みや春休みなどを使い、学生主体の支援活動が続いています。私も気仙沼には何度か行きましたが、学生たちがみな、生き生きと活動していました。 
 その一方で、鶴見区と社会福祉協議会から要請を受けて、地域に根ざしたボランティア活動も始まっています。例えば、鶴見区には外国の方が数多く在住していますが、そのお子さんたちを対象に、本学の学生や教員が日本語学習などの支援を行っています。
 これは、大学と行政がタイアップして実現した、新しいタイプの地域密着型貢献活動ではないかと考えて今後に期待しています。
 これからは、このような形で連携、地域社会の発展に寄与する様々な活動をいっそう積極的に推進するべきだと思うのですが、市長のご意見はいかがでしょうか。
市長 おっしゃるとおりですね。大学は、知の結集の場であり、地域の大切な財産であり、私達、行政にとって大切なパートナーです。教育研究の成果や学生の皆さんのパワーを生かし、地域の皆様、ご企業、本市と連携し、地域のまちづくりにご一緒に取り組んでいただければと思っております。
学長 ぜひ、よろしくお願いいたします。話は尽きませんが、そろそろ時間となりました。最後に、それぞれの将来展望で、対談を締めくくりたいと思います。
 本学にとって、今回の50周年、60周年は、あくまでも一つの通過点に過ぎません。
 今後は、文明開化の先駆けとなった横浜は鶴見の地に開校した大学として、本学の特性でもある“文・歯・短”という異色の学部同士の融合をうまく図りながら、より個性的で、魅力あふれる鶴見大学の創造へ向けて、全学が一丸となり、邁進していきたいと考えています。
市長 ますますの貴学の御発展をお祈りしております。
 私は、370万人の市民の皆様の安心・安全をお守りし、この横浜を心豊かな活力ある都市にしていくために、引き続き力を尽くしてまいりたいと思います。
 横浜市内には鶴見大学様をはじめ、28の大学があり、横浜にとって大変貴重な財産です。木村学長にもご参画いただいている「大学・都市パートナーシップ協議会」を中心に、市内大学間の交流と連携を深め、地域貢献の取組を進めていただいております。
 今後とも、豊かな知的資源と人材を擁する大学の皆様と手を携え、横浜を多くの人を惹きつける、魅力と活力に満ちた学術都市にしていきたいと思っております。
学長 今日は素晴らしいお話が聞けて、とても嬉しく、有難く存じました。長時間、ありがとうございました。

 

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