巨大地震と大津波。3・11の東日本大震災は、
三陸地方を中心に甚大な被害をもたらしました。
被災地支援のために、本学では
「鶴見大学東日本大震災救援ボランティア対策委員会」を設置。
この夏休みに、81人の学生と教職員ボランティアが
被災地(宮城県気仙沼市本吉地区)に入り、
地元の小・中学生の学習支援や歯科衛生の啓発活動などに
精力的に取り組みました。
ボランティア活動に参加した皆さんに、
被災地で見たこと、感じたこと、考えたことなどを語っていただきました。

─3・11の東日本大震災は、千年に一度の巨大地震と言われ、大津波で多くの方が犠牲になりました。被災地支援のための「鶴見大学東日本大震災救援ボランティア対策委員会」は、どのような経緯で発足したのですか。

山根 直接のきっかけは、地震直後に学生有志から出た「ぜひ現地でボランティア活動を」との強い要望です。ただ、その時は福島の原発問題があり、強い余震も続いていたため、大学側としては学生の安全を第一に考え、結論を出すに至りませんでした。
 その代わり、全学学生委員会を中心に、被災地に教職員を派遣するなどして、ボランティア活動の受け皿づくりを進め、準備が整った5月の連休明けに、東日本大震災救援ボランティア対策委員会を立ち上げました。
前田 少し補足すると、ボランティア活動を最初に提案してきたのは、歯学部の臨床実習生たちなんです。彼らは地震当日にちょうど附属病院内にいて、率先して患者さんの避難誘導に当たりました。そして、地震後すぐに被災地でのボランティア活動を申し出ました。臨床実習生たちの熱意が、今回の被災地支援の出発点だったように思います。

津波被害の宮城・気仙沼で支援活動

─実際のボランティア活動は、どのような形で行われたのですか。

飯田 まず曹洞宗の国際ボランティア組織であるシャンティ国際ボランティア会(略称SVA)の協力を得て、支援先を津波被害の大きかった宮城県気仙沼市の本吉地区に決めました。ここでは既にSVAが支援活動を始めており、鶴見大学のボランティア隊は、地元の大谷小学校・中学校を中心に、主に子供たちの学習面のサポートや歯科衛生の啓発という形で、支援活動を行うことになりました。

─ボランティア活動は、夏休みを利用して行ったそうですね。

九野 学生の本分である学業をおろそかにはできないので活動期間を夏休みとしました。
飯田 具体的には7月25日から8月21日までの約1カ月です。活動に参加したのは、文学部・歯学部・短期大学部の学生(54人)と教職員(27人)で、合わせて81人です。学生たちは4班に別れて順次、現地に入り、精力的に支援活動に取り組みました。


ボランティア活動の様子

 

目の前に広がる惨状に言葉を失う

─では、ボランティア活動に参加した学生の皆さんに伺います。実際に被災地に入ってみて、現地の第一印象はいかがでしたか。

平田 私は8月の半ばに現地に入りました。既に震災から5カ月が経つのに、まだ瓦礫の山があちこちに残り、その惨状に衝撃を受けました。
 でも、現地の人が笑顔で迎えてくれ、自分たちの生活が大変なのに、私たちに食材などを分けてくださった。それがとても印象に残っています。
髙木 私はボランティア班の第一陣として、7月25日に被災地へ。気仙沼駅から現地へ向けて、車で海岸沿いを走っていると、津波で何もかもが流され、荒涼とした光景が一面に広がっているんです。一瞬、「ここはどこ。本当に日本なの?」と、わが目を疑い、涙が止まりませんでした。
丸尾 本当に海岸沿いの一帯は、津波のツメ跡が生々しく、僕も呆然自失の状態でした。その一方で、所々に残る建物に「ボランティアの人に感謝」とか「みんなでガンバロー」といった看板が掲げてある。それを見て、被災者の方々の力強さも感じました。
菅沼 僕が被災地へ入ったのは8月半ば。だいぶ復旧が進んでいると想像していたのに、まだ大きな船が陸に押し上げられたままになっていて、ショックを受けました。
今泉 僕も同じです。テレビで何度も目にしてきた惨状が、現実のものとして、目の前にある。驚きのあまり、言葉が出ませんでした。ただ同時に、被災地に入る前に感じていた「自分に何ができるのか」という迷いや不安が消え、ここでボランティアとして精一杯、頑張ろうと、強い気持ちがこみ上げてきました。

学習支援と歯科衛生の啓発活動を両輪に

─今回は学生ボランティアらしく、被災地の小・中学生の学習支援と歯学部を持つ本学の特性を生かした歯科衛生の啓発活動が中心でした。具体的には、それぞれどのような活動を行ったのですか。

飯田 まず学習支援では、「学びの場をつくろう」をコンセプトに、地元の大谷小学校と中学校の児童・生徒を対象に、学習面のサポートを集中的に行いました。
 小学生は自由参加で、学習時間は朝9時から11時まで。津波の被害を免れた学校の図書室などを使い、夏休み中の宿題や自由研究を中心に、学生たちが一人ひとり丁寧に、学習の手伝いをしました。
 また中学生の場合は、学校側の要望もあり、8月1日からの4日間だけ、短期集中方式で、英語や数学を中心に学習面のサポートを行いました。こちらはほぼ全員参加で、百人近い生徒が参加しました。
 一方、歯科衛生の啓発活動では、歯学部と短期大学部の歯科衛生科の学生が中心になって組んだプログラムに基づき、「歯ブラシ教室」などを開催。正しい歯の磨き方や口腔保健の大切さについて、実演を交えながら、分かりやすく話をしました。

─学習支援や歯科衛生の啓発活動などは、うまくできましたか?

髙木 私は大谷小で、主に3・4年生を担当し、夏休みの宿題の問題を一緒に解いたり、作文の添削などをしました。勉強だけでは飽きてしまうので、途中でクイズや謎なぞ遊びなども入れ、子供たちと楽しく過ごせました。
平田 私が現地へ入った頃は、大半の子が宿題を終えていて、こちらから学習用のプリントを持参しました。でも、みな嫌な顔も見せず、勉強に励んでくれました。
丸尾 そう。現地の子は、みな真面目だったよね。僕も学習用ドリルをたくさん持って行ったんだけど、一生懸命、問題と格闘してましたから。 菅沼 学習だけでなく、遊びもいろいろやったよね。歯科材の固いプラスチックを使った「歯型のキーホルダー作り」なんて、みんな大喜び。完成すると、「できた!」と大きな歓声を上げ、本当に嬉しそうでした。
髙木 それとアニメ映画の鑑賞会もしたでしょ。上映は3回だけでしたが、子供たちには結構、好評でした。
丸尾 「歯ブラシ教室」では、歯磨きの重要性を分かりやすくPRするため、歯学部の学生が紙芝居を作り、それをパソコンに取り込んで、スライドで見せた。あれも評判が良かったよね。
今泉 手前ミソかもしれないけど、グッドアイデアだったと思います。


歯型キーホルダー付き 歯ブラシ

 

大きな余震にびっくり

─ところで、現地の子供たちの様子はいかがでしたか。

菅沼 津波で身内を亡くした子もたくさんいるはずなのに、みな明るく、元気で、僕らの方が逆に励まされました。
平田 そう。もっと沈んでいる子が多いのかな、と思っていたので、あの元気さは、ちょっと意外でしたね。
髙木 でも、悲しみを内に秘めている子も多かったみたいですよ。私は延べ8日間も現地に滞在したので、子供たちとも親しくなれた。それで一人の女の子が、津波に呑まれたお父さんと遺体で対面した時の話をしてくれたのですが、聴いている私の方がつらくて、涙をおさえるのに必死でした。子供たちが元気なのは、表向きだけ。みな心の中に深い悲しみを抱えているんだな、と思いました。

─3・11の後、現地では余震が続発していました。ずいぶんと怖い目にも遭ったのではないですか。

飯田 確かに、余震はしょっ中でしたね。
髙木 私が滞在中も明け方に大きな余震があり、びっくりして飛び起きました。建物が大きく揺れ、友達と手を取り合いながら、思わず「私、ここで死ぬのかな」と思いました。でも、余震があまりに多いので、そのうち震度3程度なら慣れっこになり、全く驚かなくなりました(笑)。

被災地の子どもたちに逆に勇気をもらう

─さて、被災地支援のボランティア活動に参加して、皆さんは現地でどんなことを感じ、何を学びましたか。率直な感想を聞かせてください。

今泉 現地では、SVAの人と一緒に、地元の夏祭りや「復興祭」などの手伝いもさせてもらいました。お陰で、被災者や他のボランティアの方々とも直に触れ合え、交流の輪が広がりました。ボランティアの多くは、指示を待つのではなく、何ができるかを自分の頭で考え、率先して行動している。それを見て、大変勉強になりました。
菅沼 僕も今泉先輩と共に、復興祭などを手伝い、人と人のつながり、絆の大切さを改めて痛感しました。現地でしか学べないこともたくさんあり、ボランティア活動に参加して、本当に良かったと思っています。
丸尾 ただ、現地にはボランティアがたくさん入っていましたが、地元の受け止め方はいろいろ。中には歓迎しない向きもあり、現地の方の気持ちを汲み、よく考えて慎重に行動しないといけないな、と強く感じました。
平田 私には一つ、心残りがあります。6年生の子が涙をこらえ、被災時の大変な状況の話をしてくれたのに、私は聴くだけで精一杯で、その子の心のケアまでしてあげられなかった。それが悔しくてなりません。
髙木 私は被災地の子供から、多くを学びました。例えば、津波で親など身内を亡くしているのに、それに負けず、前を向き、たくましく生きようとしている。そのエネルギーに圧倒され、私の方が生きる勇気をもらった気がします。
 それと現地の子から「お願いだから、私たちのことを忘れないで」と言われた一言が、胸に突き刺さっています。支援活動を今回限りで終わらせてはいけない。今はそう自分に強く言い聞かせています。

─今回のボランティア活動について、前田先生はどのような感想をお持ちですか。

前田 歯学部の臨床実習生たちから話が出た時は、正直、「うまくできるのか」とちょっと心配でした。でも、現地での共同生活も規律を守って、乱れることがなく、また朝早くから夜遅くまで毎日、自炊をしながら、本当によく頑張ってくれました。被災者の方々と一緒に過ごしたことで、学生たちもいろいろなことを学び、大きく成長したように思います。ボランティア活動に参加した学生には、とても感謝しています。
九野 全く同感です。私も8月初めに2泊3日で現地へ入りましたが、学生たちは朝早く起きて食事を作り、その日の打ち合わせをして、それぞれの活動場所へ散っていく。夜はまた遅くまで、翌日の準備に忙しい。ふだん鶴見のキャンパスで見る姿とは違い、「うちの学生もなかなかやるじゃないか」と、実に頼もしく思いました。

11月にポスター展とシンポジウムを開催

─では最後に、今後の活動について、大学側の考えを聞かせてください。

山根 今回のボランティア活動は、建学の精神である「大覚円成 報恩行持(感謝を忘れず 真人となる)」に基づき、被災地で人と人の架け橋になることを目的に実施したものです。学生たちにとっても、建学の精神を体現するうえで、大変によい機会となったのではないでしょうか。また活動に当たり、鶴真会や父母会、同窓会をはじめ、関係者の皆様から多大なご支援をいただき、心より感謝しております。
 今後の活動ですが、まず今回の貴重な体験を広く学内外に伝えるため、11月7日から12日まで、写真などのポスター展示を学内で行い、最終12日には、現地の大谷小の藤村校長先生による講演とシンポジウムを予定しています。
 それ以外の被災地支援活動については、今は未定です。しかし「冬休みにもぜひ継続を」との地元からの要望もいただいており、どんな形での支援が望ましいのか鋭意、検討を重ねたいと考えています。

─ありがとうございました。

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