臨床講座と基礎研究の橋渡し

 本学歯学部の探索歯学講座が注目を集めている。探索歯学とは、トランスレーショナル・リサーチの訳である探索医療を歯科の分野に展開しているもので、例えばiPS細胞をどう治療に活かしていくかなど、医療の現場で行われている治療法や処置と、研究や実験から生まれる新しい発見や開発された先端医療技術を橋渡しするもので、先進的な医療には欠かせない分野として、アメリカで生まれた。専門誌や学会で公表された臨床結果や論文などを広く検索し、疫学的観察や統計による治療結果に根拠を求めながら、治療効果・副作用・予後の臨床結果を考え、医療を進める。
 国内では京都大学医学部附属病院の探索医療センターが有名だが、本学でも2008年に、厚生労働省の研究機関である国立保健医療科学院から、花田信弘教授、野村義明准教授、今井奬講師を招き、国公立大学も含めて歯学部としては初めて探索歯学講座を開設した。
 この講座では昨年、歯科矯正学講座と共同で、歯科臨床分野で最も実用化が期待される歯根膜細胞からのiPS細胞の樹立に日本で初めて成功した。また、プロバイオテックス(善玉菌)の開発とそのメカニズムを解明する基礎研究など、本学のさまざまな講座と連携して、臨床と基礎研究の橋渡しを進めている。こうした研究が評価され、2012年度には9件もの研究が科研費の採択を受けた。この採択数は歯学部としては全国でもトップクラスである。また、企業からの関心も高く、3つの寄附講座では協働で研究を進めている。
「これも多くの講座の研究をお手伝いしているからです」と花田教授は語る。

3DS(デンタル・デリバリー・システム)は問診と血圧や体組成計などでの測定から始まり、
トレイの製作、さまざまな検査など、5回の診療で構成される。
毎回、両手両足の4か所から同時に血圧を測定し、血圧の差から血管の状態を調べるのが特徴。
右の歯形から作られた透明なトレイは附属病院中央技工室製(囲み写真)。

健康長寿の視点からの歯科医療

 探索歯学講座では、本年4月から、附属病院補綴科で血管の健康を守る「口腔除菌外来」を立ち上げた。
「今まで歯科医療は主に口腔内の健康を考えることでしたが、私たちはそれを通じて、健康長寿へ貢献することを目標としています。ヘルシーライフ・プロモーションを歯科から発信する、がコンセプトです」
人体の中で口腔内は最も細菌が多く、虫歯菌・歯周病菌ほか700菌種の細菌がある。歯周病をはじめ、歯の健康が損なわれると、口の中の菌が歯の周りの血管から入りやすくなる。唾液1mlには10万〜100万の菌がいて、これらの菌が血管に流れ込んでしまう。血液とともに菌が体全体に運ばれれば炎症が起こり、老化やさまざまな病気の発症につながる。それを予防するのが、口腔除菌外来の3DS(デンタル・デリバリー・システム)である。
 その人に合わせたマウスピース状のトレイを作り、毎日、必要な薬品を塗ったトレイを数分装着することで口腔内の細菌を除去し、細菌が血液に入り込むことを防ぎ、体中の血管の健康を守る。同時に血管年齢の測定などで、治療の効果を計り、さらに効果を高めるための栄養指導、運動指導、生活習慣指導まで総合的に行う。このような健康長寿を目的とした独自の診療システムをつくり、診療を開始した。
 「現在、こうした歯学教育を進めているのは本学しかないでしょう。卒業生にも健康長寿に貢献する歯学を身に付け、社会に広めてほしいです。これからの時代に要求される歯科医師像がここにあるはずです。それを学べるのが鶴見大学です」

探索歯学講座の実験室にはさまざまな機器や研究装置が並ぶ。
花田信弘教授(左)と野村義明准教授(右)

 

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