鶴見大学は今年度、文学部が創立50周年、短期大学部が60周年を迎えます。
また歯学部は、3年前に創立40周年を盛大に祝いました。
「文明開化」のさきがけとなった横浜は鶴見の地に、
大学を開設して半世紀以上。文・短・歯と異質の学部が
同じキャンパスに同居するユニークな大学として、
着実な歩みをとげ、数多くの卒業生を世に送り出してきました。
そこで、周年事業の一つとして記念鼎談を催し、
「わが母校・鶴見大学! これが私の生きる道」と題して、
歯学部1期生の石井みどり(参議院議員)、
前田伸子(本学副学長)、桃井保子(歯学部教授)の3氏に、
学生時代の思い出や今後のさらなる発展へ向け、
本学への希望・期待などを語っていただきました。

“女の園”の歯学部に教授陣も戸惑う

─本日はお忙しい中、お集まりくださり、ありがとうございます。遠い昔の学生時代にタイムスリップして、ざっくばらんに、楽しく放談していただければと思います。
 さて、本学の歯学部は、まだ鶴見女子大学の時代の昭和45年に開設されました。当初は女子学生だけの、全国でも初めての歯学部だったそうですが、1期生として入学した印象はいかがでしたか。

前田 歯学部の入学式は、文学部や短期大学部より一足遅く、5月1日に単独で行われました。私は期待に胸をふくらませて出席したのですが、回りの学生は女子ばかり。関西の男女共学高の出身の私には、そんな“女の園”がなじめず、「何て場違いな大学に入ってしまったのか」と…。それが正直な感想でした。
 ただ、それも夏休みまで。後期の授業が始まると、女子だけの気楽さにすっかり慣れ、大学生活がとても楽しくなりました(笑)。
石井 私は中・高と女子校だったので、最初から違和感は全くありませんでした。
 でも、教える側の先生方はかなり戸惑っていましたね。男子学生が大半の東京医科歯科大から移って来た先生が多く、女子への接し方が分からなくて、本当に困ったみたいです。
桃井 学内でエレベーターに乗ったら、回りは女子学生ばかり。それでのぼせてしまった先生もいたそうよ(笑)。
石井 女子トイレの数が少なかったので、たまに男子トイレを借用するのですが、後から入って来た先生が、すごく恥ずかしそうにしていてね。 教室では、教授然としているのに、トイレではもじもじと落ち着かなくて。それがとてもおかしかったですね。

国家試験の合格率100%をめざし、全員で猛勉強

前田 でも、先生方はみな教育熱心でしたよね。
桃井 そう。「立派な女性の歯科医を育てるんだ」との気概に燃え、私たちの教育には人一倍情熱を傾けてくださった。今、私も教える側になって、当時の先生方にはとても感謝しています。
前田 それと私たち歯学部の学生にとって、第一の目標は、やはり国家試験の突破でしょ。それに向かって、1期生全員が一丸になり、猛勉強をしましたよね。
桃井 全国初の女子だけの歯学部ということで、他の歯科大からの注目度も高く、先生方も国試の合格に向けて、もう一生懸命。それで合格率アップのために、特に1期生は徹底的にしごかれました。
石井 「君たちの国試の成績次第で、大学の評価が決まるんだゾ。だから、もっと頑張れ」ってね。いつもムチ打たれてる感じでした。
前田 もっとも、そのお陰で1期生の国試合格率は100%でしょ。本当によく頑張りましたよ。
石井 あれを契機に、歯学部をはじめ、鶴見大学の評価がずいぶん高まったんじゃないかしら。国会議員になって全国を回っていると、よく支持者の方から「うちの娘は鶴大に入り、先生の後輩になったよ」という声を聞くんです。 で、「なぜ鶴見なの?」って問い返すと、「先生を見ていると、すごく活発で、伸び伸びしている。きっとこれが鶴見大学の風土なんだろうな」と思ったからなんですって。それを聞いて、私もうれしくなりました。
前田 それはとてもいい話ですね。もっとも、みどりちゃんは、学生時代からお洒落で、活発で、すごく目立つ存在だったものね。
桃井 そう。流行のミニスカートを颯爽とはいて、一見、ファッションモデルのようなんだけど、その一方で、硬派雑誌の「朝日ジャーナル」を愛読していて、話すことがとてもポリティカルなのよね。クラスメートなのに、別の世界の人みたいで、まぶしく見えたわ(笑)。
石井 あの頃は“政治の季節”と言われ、学生運動が盛んだったでしょ。私たちが入学する1年前には、東大の安田講堂をめぐる学生と機動隊の攻防戦があったし、鶴見の学生たちも結構、熱かったんですよ(笑)。

コミュニケーション教育に力を注ぐ

─最近は昔と比べ、歯学部の教育内容もずいぶんと変わってきているそうですね。

前田 ええ、そうなんです。まず「基礎教育」の分野では、平成17年にコアカリキュラムを編成し、その中で「医療人間科学」という科目を新設しました。そして、ここでは特に患者さんへの接遇の仕方とかコミュニケーション能力の向上に力を注いでいます。
 今の学生って、コミュニケーションの取り方が上手くないんですね。歯学部の場合は、より良い治療のために、とりわけ患者さんとの意思疎通が大事なのに、それがなかなかできない。
 そこで、今は入学早々の4月に、新入生を対象にした3日間の特別研修を催し、コミュニケーションの取り方を徹底的に教えています。
石井 大学を卒業して、せっかく歯科医になっても、患者さんと満足にコミュニケーションが取れないのでは、大問題ですものね。学生のうちから、コミュニケーションを学ばせるのは、とても大事なことだと思います。
桃井 今のは「基礎教育」の話ですが、「臨床教育」の分野も大きく変わっています。 私たちが学生の頃は、何事もお医者さんが中心で、ドクターの観点からの教育が広く行われていたでしょ。例えば、患者さんの治療に際しては、ドクターが一方的に治療方針を決め、それを患者さんに説明するだけでよかった。
 でも、今はそれではダメなんです。患者さんの意見を十分に聞き、さらにその思いまでをも汲み取って、治療方針を決めなければなりません。つまり、ドクターと患者さんは完全に対等で、そうした観点からの臨床教育に変わってきています。
石井 まぁ、そうなんだ。歯学部の教育もずいぶんと様変わりしてるんですね。
桃井 それと臨床教育と言えば、うちの歯学部の一番の特徴は、何と言っても5年次から始まる診療参加型の臨床実習ですよね。
 学生が患者さんを本当に担当し治療する、この臨床実習は受験生にも好評です。鶴見大学の歯学部附属病院は、歯科外来を受診する患者さんの数が全国で3番目に多いんです。一番は東京医科歯科大で、年間の来院患者数が約46万人。次が東京歯科大の26万人で、僅差で鶴見が続いています。
 しかも、その内訳を見ると、リピーターの患者さんがとても多く、メンテナンスの定期検診などで何度も足を運んでくれる。これは大変にうれしいことで、臨床実習をはじめとした、うちの歯学教育に対して、地域の皆さんが大きな信頼を寄せてくれている証拠だと思うんです。
石井 臨床実習では、私たちも徹底的にしごかれましたものね。自分が担当した患者さんの技工は、全部自分でやらなければいけなかったでしょ。そのため、朝早くから深夜まで技工室にこもり、必死で技工に励んだことを、今も鮮明に覚えています。

学ぶことに貪欲たれ!

─ところで、歯学部の大先輩として、鶴見大学で学ぶ在学生たちに何かメッセージをお願いできませんか。

石井 学生時代は、立派な社会人として生きていくための基礎を作る、とても大事な時期なんですね。ですから、どんなに大変なこと、つらいことにも、自ら進んでぶつかって行き、是非いろいろな経験を積んで欲しい。
 学生時代に苦労して身に付けたことは、長い人生を生きていく中で、いつか必ず役に立ちます。大学生活を無為に過ごすことなく、学ぶことに大いに貪欲たれ! それが先輩としての私の願いです。
桃井 私は歯学部の学生に一言。医療人の道を選択したのですから他を思いやる心、奉仕の精神を持ってもらいたいですね。患者さんのことを第一に考え、いつも温かいハートで診療に当たる。是非そんな歯科医師をめざして欲しい、と思います。
前田 それにさらに付け加えると、臨床医として医療の現場で働くようになっても、研究心や向上心は絶対に失わないで欲しい。常にリサーチマインドを持って、医療人としての自分自身を高め、患者さんから信頼される歯科医をめざして欲しいですね。

─石井さんは参議院議員として、国政の場で活躍されているわけですが、現在のわが国の歯科医療をどのように見ていますか。

石井 歯科医療の世界には、歯科医だけでなく、歯科衛生士や技工士など、専門職の方がたくさんいます。ところが、わが国では、こうした人たちが活躍できる場がとても狭いんですね。
 これは大変に残念なことで、ダイバーシティ(多様性)を推進して、専門職の方がその技能をフルに生かして働ける場をもっと広げていかなければなりません。
 私はこの夏に参議院議員の任期を終え、改選を迎えますが、ぜひ再選を果たし、「歯科医療界にダイバーシティを作る」取り組みを推進していきたいと考えています。
前田 それは素晴らしい。私たちも協力しますので、ぜひ一緒に頑張りましょう。

本学の特性を生かし、魅力あふれる大学の創造を

─最後に、これからの鶴見大学にどんなことを期待しますか。卒業生の立場から、ひとつ忌憚のないご意見をお願いします。

石井 歯学部に関して言えば、最先端の歯科医療を牽引してきたこれまでの実績を生かし、再生医療やがんをはじめとした口腔領域の一大先端医療センターをめざして欲しい。それが私の希望です。
 鶴見大学は、羽田空港にも近く、地の利がとてもいい。このメリットを生かして、一大医療センター化を推進すれば、外国から患者さんを呼び込むことも可能になり、広く世界に向けて、歯科医療の門戸を開くことにもつながるはずです。
桃井 歯学部に籍を置き、歯学教育と研究に携わる者として、良き臨床歯科医を育てることを最重要事項として行きたいですし、その体制構築に力を注ぎます。
 また、地域の歯科医師の先生方との連携を強め、今の附属病院をより地域に根差し、地域に開かれた先端医療機関として発展させたいと思っています。
前田 私は副学長の立場から、鶴見大学がめざすべきキャンパス像について、少し話をしてみたい。鶴見の一番の良さって、学生と教員の距離が近く、アットホームな温かい雰囲気があることなんですね。 教員の間にもセクショナリズムが少なく、オープンで、すごく風通しがいい。この良き伝統を今後も継承し、学生たちが学びやすい環境づくりをさらに推進していきたいと考えています。
 それともう一つは、文・短・歯という異色の学部同士をうまく融合させ、魅力いっぱいの大学を創造すること。この課題にも積極的に取り組むつもりです。
石井 まさにアートとサイエンスの融合よね。いろいろと難しさはあると思うけど、鶴見の特性である両者の融合がうまくいけば、さらに魅力的な大学に生まれ変わることも決して夢ではない。OGの一人として、そんな日が早く来ることを強く願っています。

─本日はいろいろとありがとうございました。

 

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