本学は来年、大学が創立50周年、短期大学部が同60周年を迎えます。
このような長い歩みの中で、これまで多くの有為な人材が本学を巣立ち、
社会の第一線で活躍しています。
歯学部・文学部・短期大学部と、性格の異なる3つの学部を擁し、
ユニークな総合大学として発展を続ける鶴見大学。
そこで「将来を担える人間の形成をめざして」と題し、
3学部長に本学の建学の精神と教育方針、また各学部の特徴について
語っていただきました。コーディネーターは前田伸子副学長です。

禅の教えに基づく「建学の精神」

前田 鶴見大学は、曹洞宗の大本山總持寺が設立した学校で、禅の教えに基づく「大覚円成 報恩行持」を建学の精神に掲げています。これを現代の言葉にして、もっと分かりやすくということで、2年前に学長先生のご発案で「感謝を忘れず 真人となる」「感謝のこころ 育んで いのち輝く 人となる」という、二通りの現代表記をあわせて使うことにしました。
 本学の教育の根幹を成す建学の精神を、各学部では学生たちにどのように伝えていますか。歯学部の小林先生、いかがでしょう?
小林 今年は医療人間科学の最初の授業で、入学早々の新入生に、木村学長から建学の精神の特別講義をしていただきました。歯学部では、ほかにも各講堂に掲示し、医療倫理の授業や解剖献体の慰霊祭、一泊参禅会、臨床実習の登院時など、様々な機会を通して、学生たちが建学の精神に触れ、学べるようになっています。
前田 歯学部では建学の精神を教える際、二つの現代表記のうち、「感謝のこころ 育んで いのち輝く 人となる」の方を活用されているそうですね。それはなぜですか。
小林 医療人に必須の“こころ”“いのち”“育”“人”といったキーワードが含まれていて、歯学部にぴったりの現代表記だからです。
 また歯学部には「敦恵愛 以為醫之心」(恵愛をあつくし、以て醫の心と為す)という教育理念があります。歯学部の創設者で、初代歯学部長の長尾優先生の言葉ですが、学生たちには、これと建学の精神を両輪に、医療人としての心構えを説いています。
前田 文学部の方はいかがですか。
長塚 歯学部と同様、宗教学の授業や一泊参禅会などを通して、学生たちに建学の精神を伝えています。これと併せ、特に新入生には学科ごとに教員オリエンテーションを行い、今後の生き方などについて話す機会を持っています。その中で、自立心を養い、将来、社会に貢献できるような人間形成に努めること。そのために、4年間の大学生活がいかに大切かを、教員たちが熱い心で伝えています。
前田 上田先生、短期大学部の方はいかがでしょう?
上田 短大部は保育科と歯科衛生科で構成され、幼稚園教諭・保育士、歯科衛生士といった専門職の養成を目的にしています。こうしたプロフェッショナルな人材を育成する上で、建学の精神は大いに役立っています。そこで、短大部では入学式の後の「対面式」で、建学の精神と現代表記について学生たちに詳しく説明しています。
 このほか釈尊降誕会、精霊祭などの宗教行持や一泊参禅会を通して、学生たちは建学の精神を自ずと体得しているようです。

大本山總持寺で「一泊参禅会」

前田 一泊参禅会の話が出ましたが、全学の新入生を対象に、毎年5月に大本山總持寺で催す参禅会は、本学ならではの学校行事です。学生たちの評判はいかがですか。
上田 お寺に一泊して、坐禅を組み、精進料理をいただく。修行僧と同じ生活をするわけですから、学生たちも新鮮な体験と感じているようです。
長塚 学生にとっては、とても貴重な体験ですよね。入学して、学友のことが少し分かりかけてきた頃に、お寺に一泊して寝食を共にする。これで一気にお互いの距離が縮まり、親近感が深まるようです。学生同士、あるいは教員とのコミュニケーションづくりの点からも、一泊参禅会は素晴らしい行事だと思います。
小林 同感ですね。私も本学の卒業生ですが、私が在学中は一泊参禅会はありませんでした。今の学生はこんな貴重な体験ができて、本当にうらやましい(笑)。歯学部の卒業生に聞いてみても、みな一泊参禅会がいい思い出になっているようです。

建学の精神を体現 学生たちのボランティア活動

前田 ところで、昨年の「3・11 東日本大震災」の後、歯学部の学生有志が中心になって、被災地支援のボランティア活動を立ち上げました。その後、教職員を含め、全学挙げてのボランティア組織に発展し、津波被害を受けた宮城県気仙沼市の大谷小学校などで、子供たちの学習支援活動などを行っています。建学の精神に基づく、素晴らしい活動だと思うのですが、いかがでしょうか。
長塚 私も昨年夏に気仙沼の被災地へ入り、裏方として学習支援活動をサポートしましたが、学生たちは現地の方々とも打ち解け、生き生きとボランティア活動に励んでいました。その姿に感動を覚えると同時に、鶴見のキャンパスではひ弱な感じだった学生が大きく見え、実に頼もしく思えました(笑)。
小林 私も昨夏、現地に視察に行き、学生たちの活動ぶりを見てきました。また、5月に大学会館で行われたボランティア活動の報告会も参加しましたが、どの報告も素晴らしく、建学の精神が学生たちの心にしっかりと息づいていることを、強く実感しました。
前田 上田先生は、いかがですか。
上田 私は、今年の夏休みは、みつる会の学生と一緒に岩手県の被災地を慰問しようと思っています。
前田 先生、みつる会とは何か。ちょっと説明していただけませんか。
上田 みつる会は、昭和31年に、保育科の前身である鶴見女子短期大学幼稚園教諭養成所がおかれた時から活動を始めていますから、50年を超える歴史を有しております。毎年、夏休みを利用して全国各地の幼稚園・保育所をたずね、子どもたちにヘビダンス等の児童劇を通じていろいろな実践活動をおこなっております。
 そして、今回は少しでも被災地の子供たちの励ましになればと思い、岩手を訪問することにしました。

全国屈指の大学図書館を活用した授業を展開

前田 なるほど。お話を伺うと、これも建学の精神に基づく学生たちの自主活動ですよね。ぜひ頑張っていただきたいと思います。
 では、次に各学部の特徴と「将来を担える人材の育成」へ向け、どのような教育を実践されているのか。その辺りのお話を伺いたいと思います。文学部の長塚先生からどうぞ。
長塚 ここ10数年、文学部は大きな変革期の中にあり、多くの大学が文学部の名称を変更しています。しかし本学は、文学部の中に新しい学科(文化財学科、ドキュメンテーション学科)を増設することで、多様化する時代のニーズに応えてきました。まず、これが特徴の一つです。
 もう一つの特徴は、図書館の活用です。本学には約80万冊の蔵書を有し、全国大学図書館ランキングでも常にトップ10に入る立派な図書館があります。そこで、知の宝庫の図書館の中で授業を行ったり、最近は図書館の職員と共同で授業を進めるなど、先人の残した書物群の活用を図る試みも頻繁に行っています。
 また図書館の活用という点で言えば、大学院生による学習アドバイザー制度も充実しています。これは図書館内に相談コーナーを設け、大学院生が学生たちの学修面での相談に乗る制度です。相談場所が図書館内なので、授業の課題やレポート作成などの相談は、その場で参考図書を見ながら教えてもらえるため、学生たちにも好評です。

保育・歯科衛生科は就職率100%

前田 次は、短期大学部の上田先生どうぞ。
上田 まず保育科ですが、創設から半世紀という長い歴史と伝統を持ち、この間の卒業生は約13000名を数えます。卒業生は、地元神奈川や東京はもとより、全国各地で活躍しており、幼稚園や保育園での実習の際には、お世話になることも多く、在学生にとっては心強い限りです。
 また資格面も充実していて、保育科で2年学べば、幼稚園教諭(2種免許)と保育士の二つの国家資格が取得できます。このほか、保育と福祉の二つの専攻科(1年制)があり、こちらに進学して、さらに学べば、幼稚園教諭(1種免許)と介護福祉士の登録資格取得の道も開けます。
 一方、歯科衛生科もいち早く3年制に移行し、着実に教育の成果が上がっています。歯学部という強力なバックボーンを持つお陰で、最新鋭の設備が整った附属病院で実習を受けることができ、教育環境も申し分がありません。
前田 短期大学部は、就職状況も大変に良いそうですね。
上田 はい。保育科では毎年、170名程度の就職希望がありますが、求人先は960件前後、実人数では1300名近い求人があり、完全に売り手市場です。歯科衛生科の方も近年、国家試験の合格率が限りなく100%に近い実績を残しており、就職先探しで困ることは全くありません。

診療参加型臨床実習で患者さん中心の医療を実践

前田 では小林先生、PRも兼ねて、歯学部の特徴などをどうぞ。
小林 歯学部の一番の特徴は、何と言っても、5・6年次に附属病院で行われる診療参加型の臨床実習です。学生たちが実際に病院の患者さんを担当し、診察から治療まで、患者さん中心の医療を実践します。こうした診療参加型臨床実習ができる所は、全国の国公私立の歯科大学の中でも、非常に数が少なく、本学のセールスポイントの一つです。
 ただ、その一方で課題もある。国家試験の合格率アップがそれです。今年の国試の結果を見ると、新卒者の合格率はほぼ全国平均でしたが、既卒者を含めた全体の合格率は、全国平均を下回りました。歯学部としては国試対策にさらに力を注ぎ、この課題をクリアすることが急務です。

入試キャリアセンターの新設で就職支援を強化

前田 この辺でひとつ厳しい話も。文学部は就職状況が厳しいようですが、この問題についてどうお考えですか。
長塚 確かに文学部の学生は、就職活動で苦戦を強いられています。「景気が悪いので…」と言えば、それまでですが、文学部としては就職率のアップへ向け、さらにバックアップ体制を強化する方針です。
 まず、この4月から全学的な組織として、入試キャリアセンターが新たに発足しました。そこで、センターと密接に連携しながら、授業の中でキャリア形成に役立つ科目の充実を図ったり、インターンシップの取り組みを強化するなど、就職支援体制づくりに全力を注ぐつもりです。
前田 小林先生、歯学部では以前に比べ、志願者の数が減っているのが気がかりです。この点については、どのようにお考えですか。
小林 昨今は受験生の歯学部離れが顕著で、どこの歯科大学も、志願者減に頭を痛めています。つい最近は、国家試験の合格率が高く、教育環境も申し分のない大学でも、定員割れの所が出て来ました。
 歯学部を取り巻く環境は、一段と厳しさを増しているわけで、本学としても教育の質を高め、国試の合格率アップに邁進するなど、さらなる努力が不可欠と考えています。そうした中で、学納金の改定にも踏み切りました。

節目の年迎え 今後の展望は?

前田 来年は文学部が創立50周年、短期大学部が60周年を迎えます。大きな節目の年になるわけですが、最後に将来展望を一言ずつお願いします。
長塚 文学部の使命は、学生たちの個力を高め、社会に貢献できる人材の育成です。この原点を肝に銘じ、50周年をワンステップに、次の100年へ向けて、さらなる飛躍をめざしたいと考えています。
上田 短大部では特に保育科で、地方出身の学生が年々減る傾向にあります。地方の優秀な学生がもっとたくさん来てくれるよう、本学の魅力アップを加速させる必要があります。
小林 では、歯学部からも一言。超高齢社会を迎え、今後は高齢者、がんの術前術後などの全身状態に配慮しながら、安全で効果的な歯科治療を施す“総合歯科”の需要が高まります。そこで、本学でも超高齢社会に貢献できる優秀な歯科医療人の育成に、本腰を入れて取り組むべきだと、私は考えています。
前田 本日は鶴見大学の教育について、多方面からお話をいただき、ありがとうございました。

| 鶴見大学のホームページ | キャンパスナウTOP | ▲このページの最初に戻る |

ページトップへ