平成26年度秋季シンポジウム
『仏教の現代と仏像研究の展望』



 平成26年度秋季シンポジウムは去る11月1日土曜日、『仏教の現代と仏像研究の展望』と題して以下の内容で開催された。

・本学准教授 下室覚道氏
「現代の仏教文化―本堂新築を通して―」

・本学大学院博士前期課程2年 水落絢香氏
「曹洞宗大本山總持寺の英断
         〜御移転をめぐって〜」

・本学准教授 緒方啓介氏
「鎌倉宋風様式の源流
 ―中国宋代彫刻に見る着衣形式と坐形式」

・本学大学院博士前期課程1年 西下正純氏
「大足・安岳石刻における風化の現状
    〜四川省の風土や気候の点から〜」



aa下室氏は、自身の関わった養国寺本堂新築の事例をもとに、現代仏教における変化するもの(=形)と変化しないもの(=思想、考え方)について考えを述べられた。本堂の設計は、禅宗が大陸文化の発信拠点であったことや禅とキリスト教に共通性があること、總持寺の先進的な伽藍配置などに着目して考えられている。しかし、本堂新築の根底には過去から続く変化しない思想があり、我々が守るべき文化財がどのような意図で造られたかを考えなければならないと結ばれた。

 水落氏は、總持寺移転に関する経緯や移転後の動向について述べられた。明治38年に諸堂伽藍が焼失したことにより、首都東京に移転することになるが、移転に際し、總持寺の歴史と共に生活してきた能登の住民による反対運動も行われた。そのため別院という形で現在の地に移転することになるが、旧来の地には祖院として再建もされている。總持寺の御移転の実現は、現在の曹洞宗の発展をもたらした点で重要な意義を持つと結ばれた。

 緒方氏は、鎌倉地方の中世彫刻に見られる宋風様式について、中国四川省に残される南宋時代の石仏と比較検討を行った。鎌倉地方では、禅と共に流入した宋風様式である「法衣垂加形式」や「宋風半跏形式」等の影響を 受けた作例を見ることができる。これらの源流は南宋や高麗の請来仏、大足石刻や安岳石刻に見られる形式に類似しており、ここに源流をもつのではないかと述べられた。今後の課題としては四川省内外の石刻の調査や中国・
日本僧の足取り調査等を挙げられた。

  西下氏は、重慶市の大足石刻と四川省の安岳石刻で見学したことをもとに、石刻の現状や石造文化財の劣化要因、各石刻の保存・修復の違いについて述べられた。大足・安岳石刻は温暖湿潤な四川盆地に位置し、石刻は硬質な砂岩の急崖に見られることが多い。石造文化財は、風雨等の影響を大きく受けてしまうため、現状を維持していくためにもその地域の特性を把握し的確な保存や環境の整備を進めなければならないこと等が述べられた。
 講演後に本学文化財学科准教授である星野玲子氏が司会を務めたパネルディスカッションでは質疑応答が行われ、各質問者に対する質問が活発に交わされた。


報告 3年 佐々木 歩美