平成25年度 秋季シンポジウム
「鶴見大学文化財学科の15年とこれから」



〈基調報告〉

・本学文化財学科教授 石田千尋「建学の精神と文化財学科の教育」

〈報告〉

・本学文化財学科教授 河野眞知郎「文化財学科の構想時代」

・本学文化財学科講師 星野玲子「文化財学科の魅力」

・本学文化財学科教授 小池富雄「文化財学科の明日」

〈討論〉

・司会 本学文化財学科准教授 宗?秀明


石田は文化財学科設立時に掲げた4つの教育方針とそれを実施するためのカリキュラム構成の意味を、文化財学科の設立にあたって計り知れない功績のあった大三輪龍彦、永田勝久、河野眞知郎の3名を挙げながら述べた。

本学文学部は19631月、日本文学科と英米文学科の設置が認可され2学科でスタートした。その後19984月に文化財学科、20044月にドキュメンテーション学科を設置し、今日に至る。そのなかで、文化財学科は@「建学の精神に則り社会人としての広い教養の育成」A「多様な内容をもつ文化財に対する理解と幅広い視点」B「学外の社会にも目を向けた実習を中心とする実物教育」C「深い専門性と幅広い選択の可能性」の4項を教育方針とし、次のカリキュラムでその実践をはかるものとした。

まず「宗教学」、「日本語」、「体育」、「英語」を必修とする一方で、数多くの共通科目選択によって幅広い教養の取得を目指す。そして、専門性を高め、幅広い視点から文化財を見つめるための基礎概説として「文化財研究法」、「考古学」、「文化人類学」、「地理学」、「博物館概論」、「博物館経営論」、「歴史資料講読」の7科目を必修に定め、また多岐にわたる実習科目によって座学では終わらない実物・実地による実体験から文化財に立ち向かう姿勢を養えるようにした。さらに専門性を深め、学生の将来の進路や学的探求心を系統づける歴史・地理、考古・美術、文化財の3系列を専攻科目として設け、3年次からはじまる演習科目で文化財学科での学びを「卒業論文」に仕上げる。

1年次からの実習と専門科目の履修では、教員や学外文化財担当者など、多くの人々とのかかわりを意識的に設け、常識を備えた人格形成と文化財に対する高い専門性からの取り組み姿勢が育まれるであろう。そこに本学文化財学科の目指す教育がある。

河野は2学科であった文学部が少子化による学生数減少に対応するため、当時履修者の多かった学芸員資格課程を基に魅力的な新学科の設立が検討されるなかで文化財学科の案が浮上したことを説明した。そのうえで、文化財学の専門知識と技術を学内の授業で充当でき、同時に学芸員資格をほぼ全員が取得できるカリキュラム構成に加えて、文化財の世界で即戦力となる人材育成を目指したことを強調した。なかでも集中・連続コマとした実習授業は実体験に基づいた学習が出来るものとして、学科の特徴を遺憾なく発揮するものとなった。とくに実習助手を配置したことは成功であったとする。

星野は文化財学科卒業生の視点から、本学の環境と魅力について述べた。文化財学科は一般教養科目と並行して初年次から行なわれる実物・実地、実体験を目的とする実践的な実習科目において、最高の環境が整っているが、施設・設備を活用する学生自身が自己の意識と行動も含めて、高いスキルを求めて勉学に打ち込む必要性のあることを説いた。文化財学科は学生数が少なく、教員のきめ細かな指導を受けられることに強みがある。また、星野は各実習科目で学生をサポートする助手職の存在を含めて学生と指導陣は非常に身近であることに着目し、学生には本学科の魅力であるこの恵まれた環境をより上手く活用してもらいたいと述べた。

小池は、文化財学科のユニークな特徴として実物実地に則して行う授業、文化財を学ぶにあたっての各専門科目等が充実していることを挙げ、それは幸せなことであると述べる。現在、小池が担当するゼミでは受託研究として、「黒漆十長生図螺鈿短冊箱」の分析並びに保存修復を行っている。今年度は本学歯学部の設備協力のもと、CTスキャンによる3次元立体映像による分析を行った。最新の分析機器を擁する本学歯学部との連携は、日本のトップ水準の分析を可能としたものであり、小池はより高度な論文を書くことが出来ると意気込む。本学科の課題としては、我が学科の知名度を上げるべく、本学の他学部・他学科はじめ、博物館や研究機関等の学外研究者は勿論、海外研究者との連携をより積極的にすすめるべきであるとの提案を投げかけ報告を結んだ。

討論では、文化財学科卒業生や教員OBから在籍・在職時代の思い出と共に、今後の文化財学科のあるべき姿について、報告者共々活発に意見がかわされた。