平成24年度 秋季シンポジウム
「学芸員の仕事」


・川崎市市民ミュージアム 高橋典子先生 「川崎市市民ミュージアムにおける学芸業務〜民族担当の学芸員として〜」

 ・シルク博物館 石鍋由美子先生 「蚕種配付と学校利用〜シルク博物館の活動から〜」

 ・品川区立品川歴史館 冨川武史先生 「地域博物館における歴史展示〜品川区立品川歴史館の場合〜」


高橋先生

 川崎市市民ミュージアムは1988年に「地域博物館」として開館。同館は大まかに分けて考古・歴史・民俗から構成される博物館部門と、グラフィック・漫画・写真・映像から構成される美術館部門の両部門を持ち合わせた施設として注目を浴びるが、広い展示室の使い方、収蔵資料・作品の整理作業、建物の構造に起因する空調管理、予算等の様々な問題も抱えている。
 学芸員の仕事は、収集・保存・展示・調査・研究・教育普及等を主たる内容とし、同館では本学との共同研究や年間を通じて学校教育との連携を行っている。また他館との収蔵物の貸し借り、寺社や個人からの物品借用を積極的に行っている。博物館同士の場合には、借用の際に保存状態を確認するために出向き、返還する際にも借用品と共に返還先に向かい、最終確認を行う。ロシアの博物館からの借用事例を挙げ、学芸員とは体力勝負であると共に、他館の信頼を損なわない為に、借用品との同行は重責であると述べられた。

 
石鍋先生

 シルク博物館は1959年にシルクセンター国際貿易観光会館の一事業部門として開館。生き物であり、天然繊維であるシルクを出す「カイコ」を展示飼育している珍しい博物館である。
 同館の業務内容は、学芸業務に付随して、シルクに関する真綿や組紐などの普及啓発事業がある。その一環として行われているのがカイコの有償配布である。主に神奈川県や東京都の小学校・幼稚園を対象にカイコが配付され、飼育説明会・カイコの配付日を先生方が参加しやすい日に設定することで孵化の失敗が少なくなり、飼育方法などの問い合わせが少なくなったと述べられた。理科教材としてカイコを使用している小学校が校外学習の一環で来館するので、各学校に応じての説明並びに体験の時間配分を調整する。今後の課題として「学校現場へ直接PRする事」を掲げ、学校との連携強化を図ると共に、子供達にカイコをより知ってもらうために、伝える工夫をしなければならないと述べられた。


冨川先生

 品川区立品川歴史館は、地域博物館として品川地域の歴史的事実を正確に捉え、情報を提供する施設であり、「品川区の文化発信の一拠点」を担っている。
 品川という地域の特性・特色を生かすために広い視野で地域を捉えた展示や、個別の地域の一部のスポットに焦点を当てた展示が重要である事を述べられた。また、資料展示の他にも館自体が展示空間であり、その例として館内のフロアタイルの一部に遺跡の位置を示し、昭和初期の茶室や庭園を保存、活用している事を述べられた。
 同館にとって講演・講座を開き区民との交流を持つ事は大事であり、学芸員として生きていくには、授業や実習で学ぶ専門分野だけではなく、コミュニケーション能力や臨機応変に来館者に対応する能力も必要であると述べられた。


講演後は、本学講師の星野玲子が司会を勤めた質疑応答が行われ、各発表者個人に対する質問形式で行われた。