平成23年度 春季講演会

「富士山を世界文化遺産登録に -信仰の山、文化創造の源-」
静岡県文化・観光文化学術局世界遺産推進課 学術調査班長 松本稔章先生


            


平成23年度春季講演会は平成23年6月4日土曜日に「富士山を世界文化遺産登録に -信仰の山、文化創造の源-」と題し、静岡県文化・観光文化学術局世界遺産推進課学術調査班長、松本稔章先生にご講演いただきました。
 
 富士山は、そこを登る者の心を綺麗にすると言われ、信仰の対象になっています。また、富士山を題材とする様々な絵画や詩が生み出されています。
 
 世界遺産への登録手順は、まず当事国が暫定一覧表をユネスコに提出することから始まります。富士山の世界遺産登録を目指す静岡県・山梨県・それに関係する7つの市町村は、第2段階として、最も重要な推薦状原案を作成しています。平成23年7月末までに原案を完成させた後、国が推薦状原案の形式審査を受けるために推薦状をユネスコに提出して、11月15日までにユネスコから示される書類審査意見を受け、来年2月1日に正式にユネスコに推薦状を提出する予定です。推薦状原案提出が順調に進めば、ユネスコ諮問機関ICOMOSが平成24年の夏に現地調査と推薦状の内容をもとに審査を行います。同年5月、ICOMOSが世界遺産委員会に審査結果を勧告内容によって富士山の世界遺産登録についての合否がほぼ決まります。勧告内容は情報の追加(情報照会)、記載延期、不記載があります。
 
 富士山の世界遺産登録へ向けた経緯は、平成12年に国文化審議外会で「富士山は文化的景観として評価できる」として、富士山の調査を行い、早期に推薦すべきという意見が始まりでした。平成15年の環境省・林野庁・による検討会では、富士山を世界遺産候補として推薦する方針が決まりました。しかし富士山は民間によって広範囲に土地利用され、登山道周辺のトイレや不法投棄のごみが問題とされ、推薦が見送られました。さらに、富士山を自然遺産とするには、自然的要素が乏しい・火山としてとくちょい的ではないなど、世界遺産登録の条件である「顕著な普遍的価値」に乏しいという理由もありました。
 
 このような指摘を受けて山梨県・静岡県の両県では、平成17年から文化遺産として富士山を登録するための取り組みが始まりました。平成19年に世界遺産暫定一覧表候補の国(文化庁)公募に応募した後、平成20年に国際シンポジウム・意見交換会の活動を行い、平成21年に国際専門家会議を開催しました。現在は、平成23年7月に推薦状原案を国に提出するために、準備を進めているところです。

 富士山は『続日本記』・『万葉集』・『常陸国風土記』などに記述されています。『続日本記』では、富士山の噴火として最古の記録が見られ、そこでは「富士山」という漢字を初めて用いられています。奈良時代には「富士山」は様々な当て字があったと言われています。『万葉集』には山部赤人や高橋虫麻呂の富士山を詠んだ歌があります。山部赤人は富士山ことを「駿河なる富士」と書いています。高橋虫麻呂は唯一「なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国」と富士山の位置を正確に歌に詠んでいました。また、富士山についての記述が最も早くに記されているのは『常陸国風土記』ですが、これは伝説とされています。

 以上のように富士山は、信仰の対象とされ生きた文化伝統の物証があること、そして絵画や詩などの芸術を生み出した名山であり、傑出した文化的景観と考えられ、松本先生は、富士山が世界遺産登録に充分な顕著で普遍的価値を表していると、ご講演されました.