平成22年度春季講演会
長崎の教会群とキリスト教関連遺産



平成
22年度春季講演会は、去る65日土曜日「『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』の世界遺産登録を目指して」と題し、長崎県知事公室世界遺産登録推進室課長補佐の日高真吾先生にご講演いただきました。

世界遺産という考え方は、エジプトでアスワン=ハイ=ダムの建設によって水没する危機にあったアブ・シンベル神殿の救出を、ユネスコが世界に呼びかけたことに始まります。世界遺産の種類は文化遺産、自然遺産、複合遺産の3つです。日本は1994年に世界遺産条約を受諾し、世界では合計185カ国に890件が登録されています。

現在、長崎県では29の資産を1つにまとめ、『長崎教会群とキリスト教関連遺産』の世界遺産登録を目指しています。県内のカトリック教会の数は133で、信者数は43千人です。教会建設の特徴としては、250年もの長期にわたる潜伏から奇跡の復活を果たした独自の歴史があること、立地がひそかに信仰を守りながら生業を営む集落生活と一体化した地であること、さらに信者が平戸・長崎・五島などに広がって教会を建設したことが挙げられます。また、中江ノ島信徒発見の舞台となった大浦天主堂や信仰の歴史を物語る斬首の地などが聖地としても遺産に挙げられます。教会建築では、石を積み上げたものや、天井の低い民家風のもの、レンガ造りや木造の教会など様々な建築様式が現存します。これらキリシタンに関連する長崎県内の遺跡は各地に存在し、ヨーロッパと異なる独自の文化を有するキリスト教伝来と需要を示す遺産といえます。

先生は長崎のキリスト教の歴史は「伝来、繁栄、弾圧・潜伏、復活」の4段階であることを示されました。伝来は1549年ザビエルが種子島で布教活動を開始し、1550年平戸へ布教したことに始まります。繁栄は1570年長崎開港を契機として、イエズス会が設立されたことです。この時期に現在の日野江城跡、吉利支丹岬、サントドミンゴ教会跡、二十六旧人跡・原城跡大浦天主堂・旧ラテン学校が設立されました。その結果、西欧の文化や輸入品がもたらされた。弾圧・潜伏は1614年江戸幕府の禁教令に始まって、1632年島原の乱が起るものの、キリシタン弾圧時も信者は信仰を守り続けました。やがて18653月に大浦天主堂において信徒が発見され、長崎のキリスト教は復活に至ります。

長崎県の人口は平成17年をピークに減少傾向にあり、40年間で約16万人減少しています。中でも五島列島、離島の年間減少数は約13万人です。背景には、高卒新卒者の就職の場が少ないこと、漁業、建設業不振などがあげられます。ここ最近では、カトリック信者の多い韓国からの巡礼者も減少しているとご指摘がありました。世界遺産登録により34倍に観光客の増加した石見銀山、人口の受け入れも2倍になった白川郷や屋久島の例を受け、長崎県は世界遺産登録を通して、地域の資産・歴史の価値を地域振興や地域再生を基盤として、資産の保護・保存を目指しています。

登録に向けた県・関係市町の取り組みとして、県内52町で協力体制をとり、シンポジウムや広報・民間との取り組みも進めています。『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』は平成19年に世界遺産暫定一覧表にリスト入りをし、当初は担当者が6名でしたが、平成224月に推進本部を設置し13人体制で業務を行っているとのお話です。また地域の取り組みとして住民との意見交換会、ボランティアガイド、耕作地域での牧草栽培を薦めています。個人宅に宿泊する民泊では、宿泊者とホストが魚釣りで食糧を調達したり、夕食を共に作ったりと、体験を通し交流を深めています。民間では、平成139月から発足した「世界遺産の教会群を世界遺産にする会」、平成19年に発足し4月にNPO法人認定を受けた「世界遺産チャーチトラスト」、平成20 8月に発足され、長崎の歴史・品格を守るためのガイドの育成などを行う「長崎巡礼センター」が活動しています。

人口が減少している長崎、特に離島では、資産が多く散らばっているのが現状です。今後、世界遺産登録と長崎のために教会群の応援を多くの方にしていただきたいと先生はご講演されました。