平成21年度 秋季シンポジウム


 平成21年度秋季シンポジウムは「中世板締め染めへのアプローチ」と題し、11月7日土曜日に開催されました。
 
 最初に日本女子大学家政学部教授小笠原小枝先生から「中世の文様染め」という題で発表して頂きました。夾纈や板締め染め(板染)という染色方法は現存する道具が皆無であり、かつて幻とされました。鎌倉若宮大路出土の染型板は貴重な資料といえます。模様の表現は時代によって異なり、若宮大路出土の型板のような模様密度の高い意匠は鎌倉時代例がなく、更に年代は遡ると考えらきょうれます。しかし、鎌倉末期の絵巻に描かれた桜や柳の林立する様が染板と似ており、幾何学的に見せる表現とご指摘されました。夾纈や板染めは間に布を挟んだ板を紐で縛り、板の凹凸で染料を通さない所が白く残ります。同様の布が相当数必要な舞楽の装束などは外来物だと思われますが、日本で作成したとも考えられます。型は必ずしも木製に限らず、紙を用いることもあり、また特に臈纈は熱伝導率が高く摩耗しにくい銅型が使用されていた可能性があると述べられました。

 次に東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程李政垠氏に「上代夾纈の制作方法に関する研究」と題し、型板作成方法、布の種類や折り畳み方法、防染法、染色法について発表して頂きました。この復元研究では現存資料と共に正倉院の夾纈裂を調査し、復元した夾纈布との比較分析が行われました。夾纈裂は版木と共に布を浸して染める浸染と、版木の穴に染料を注入する方法によって染められた物が混在しています。又、防染線(白抜きに防染された模様の輪郭線)の太さが均一な物は一対の版木で染色され、不均一な物は二対以上の版木を入れ替えて染められています。復元では版木は水に強く反りにくい桜を利用し、厚さ2cmの板が締め付けに適していると述べられました。布は平組織を用い、絹地で目の細かい物を水中で畳み間に入った空気を押し出します。全体的に均一な防染のため、版板を麻紐で縛る際は板全体の圧力を均一にします。更に今後は海外の夾纈も比較的考察する必要があるとご指摘されました。

 続いて、本学非常勤講師の原田ロクゴー先生から「鎌倉若宮大路出土板締め型板の技法解明」と題し、板締め型板の染色技法解明を目的とした研究の経過報告をして頂きました。技法再現は摸刻型板(もっこくかたいた)ぼ生地を折り畳んだ防染力を高めた染色方法です。模様の通り白地を残すため、染色の前に糊で防染を施します。型板の素材は檜を用い、生地は平組織の麻布と絹布、染料は過熱が不必要なインド藍を用いました。また布を締めた板を更に締め具で挟み、全体的に均一な圧力がかかるようにします。しかしこの方法は媒染染料を使用の際は不必要な可能性もあると考えられます。この報告による22点の試染は技法解明の第一歩であり、今後は試染と考察を続け、中世染色の確かな情報を文献資料から渉猟すると共に、既存文献資料の熟読が必要だと論じられました。