平成19年度春季講演会
正倉院の世界−正倉院文書と文化財−



 平成19年度文化財学会春季講演会は、6月2日土曜日に行われました。今回の講演では「正倉院の世界−正倉院文書と文化財−」と題し、宮内庁正倉院事務所に勤務されている杉本一樹先生をお招きし、ご講演していただきました。

  はじめに、正倉院は東大寺大仏殿裏手の山側にあり、校倉造りの床下3m程度の大きな建物であることを写真を使ってお話されました。また、10月に勅封という天皇の命で行われる「正倉院御開封の儀」についても詳しくお話をしていただけました。

  次に、「正倉院文書」とはどのようなものか、ご解説いただきました。「正倉院文書」とは、主に東大寺の写経所の文書を指し、その古文書を総称して「正倉院文書」というそうです。「正倉院文書」に使用された用紙は、奈良時代の公文所、つまり「戸籍・計帳」、「正税帳」、「中央官庁の公文」などの裏紙を利用して写経したものが多く、墨や紙を支給してきた人の作業の様子が書かれた文も、写経用紙の裏に残っていたりするそうです。そのため、この「正倉院文書」は、当時の事を知るうえで非常に貴重な資料であることを、実際の文書を提示しながらお話されました。

  東大寺の写経所は、一切経というお経の大全集を写すことを目的とした役所だったそうです。主に写経が仕事であるが、紙の調達や紙を張り合わせ、巻物にする作業を行う人々もいたそうです。奈良時代は、仏教で国を治めようとしていたため、この写経所の仕事は大変大きな仕事であったそうです。

  これらの古文書の保存は、紙の素材や写経のために再利用されたものなどがあるため、遺存状態も保存状態も違うそうです。近年、保存科学が学問の分野として水準が上がっており、この技術を使いながら、カビ・虫害などから古文書を守るため、どのような場所に置くのが適切なのか見極める事の大切さをお話ししていただきました。
  そして、正倉院の千何百年も経つものを扱う人は、文書が今どのような状態なのか、モノに触れずモノを見て考える事により、その文書がどのように扱われたがっているか、その声を聞くことが大切であると、御教授されながら杉本先生は講演を閉じられました。