平成19年度秋季シンポジウム
歴史転換点の“武力”



  平成19年度文化財学会秋季シンポジウムは「歴史転換点の“武力”」と題され、11月17日土曜日に開催されました。

  はじめに、本学教授の河野眞知郎先生より「武力とは何か」という問題提起がありました。
  その後、関連報告として、はじめに本学教授である伊藤正義先生より「鎌倉を護る龍神−蒙古襲来の恐怖−」という論題で発表していただきました。まず、鎌倉の世界遺産登録を目指した活動の概要についてのお話をされました。安房国安西景盛宅と鎌倉、三浦衣笠城、鎌倉城、鎌倉の地形と景観の特性−蔵風得水・四神相応の地−、切通と山稜部防御遺構の造営、蒙古襲来と鎌倉の加持祈祷体制−鎌倉を護る龍神−について論じられました。

  次に、本学博士前期課程2年の堀口和俊氏から「支配勢力に翻弄される在地勢力−武蔵国三田氏について−」と題して発表がありました。堀口氏は、戦国時代の武蔵国在地領主三田氏を、東京都青梅市に残る史料「谷合家文書」と『小田原衆所領役帳』を使って「武力」の面から考察されました。その中で、関東管領上杉氏に仕えていたころと小田原北条氏に仕え三田氏が滅亡してゆくまでを述べられ、谷合久信が書いた「日記」にある「三田八十騎」という記述が、三田氏の「武力」を表しているのではないだろうかというお話をされました。

  続いて、品川区立品川歴史館冨川武史氏から「幕末期の品川台場警衛について−嘉永6〜7年における江戸湾防備新体制の確立を中心に−」と題して発表がありました。冨川氏は、ペリー来航以前における江戸湾防備、嘉永6年ペリー来航と老中阿部正弘の対応、品川台場の築造と江戸湾防備新体制の確立について、諸資料や諸大名による品川台場警衛の変遷の表、現在の台場の現状の写真を使ってお話されました。

  最後に、本学博士前期課程1年の福田舞子氏から「幕末期の軍事情勢について−千駄ヶ谷焔硝蔵を中心として−」と題して発表がありました。福田氏は、近代的軍備を整えていくなかで、幕府が火薬の存在を重視していた様子を国立公文書館内閣文庫所蔵江戸城多聞櫓文書の中にある焔硝蔵、および蔵の管理にあたる鉄砲玉薬奉行に関する史料から考察しました。そして、多聞櫓文書の焔硝蔵、および蔵の管理にあたる鉄砲玉薬奉行に関する史料を通じて、幕末期の軍事情勢に幕府がどういった姿勢で対応をしたのかということについてお話されました。

  シンポジウムの締めくくりとして、パネルディスカッションが行われました。本学教授の河野先生を司会に、講演者の方々を交え、会場からの質問に答えていただきました。予定が押していましたが、河野先生の進行で質問用紙に書かれた聴講者からの質問に講演者が解答するかたちで行われ、秋季シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。