平成18年度秋季シンポジウム
漆と文化財



  平成18年度文化財学会秋季シンポジウムは「漆と文化財」と題され11月18日土曜日に開催されました。

  基調講演として、はじめに本学教授である中里壽克先生より「中尊寺金色堂修理の今日的有義」という論題で発表していただきました。最初に漆芸品の修理についての概要、金色堂の修理歴を説明され、その後、中里先生が実際に修理に携わった時の現場のスライドを用いて、修理の過程や技法について紹介していただきました。また、現場での様子や苦労したことなどをお話されました。

  関連報告として、本学教授である石田千尋先生に「近世輸出漆器研究序説−文献史料からのアプローチ−」という論題で発表していただきました。石田先生は、先ず日蘭貿易がどのようなものであったのかということについてお話されました。その中でも漆芸品に注目し、『日本商館文書』など諸種の文献に表れる漆器輸出の記事、さらには帳簿に記載されている漆芸品の記録を紹介していただき、今後検討されるべき問題を指摘されました。

  次に、本学教授の河野眞知朗先生から「中世鎌倉の漆−遺跡・遺物からさぐる−」という題で発表していただきました。鎌倉の遺跡・遺物に焦点を当て、漆の使用状況について考察し、中でも絵付けの図柄・漆芸品を作成するために用いられたと思われる遺物から、職人と工房の存在を示唆されました。また、漆を接着剤として使用された遺物などから民間にも広く普及していたことを指摘されました。

  続いて、本学教授の岩橋春樹先生が「鎌倉出土の漆絵椀・皿−絵付けの−美術史的意義を再考する−」と題して発表されました。最初に、先生の持つ、作品や様式に対する従来の解釈を示され、絵画資料としての意義を挙げられました。その中で、絵画作品が成立する過程について図を用いて説明されました。また、拙い絵ほど基礎資料としての価値が高いということについて述べられ、出土品の漆器についての考察を行われました。

  最後に、本学大学院博士前期課程1年の森山知加さんから「印判施文技法の実証的研究」と題して発表がありました。はじめに印判施文技法について、筆を用いた方法と、印判を用いた方法の2通りについて考察され、それを踏まえて和紙と皮の漆との相性や文様表面について写真を交えながらお話されました。

  シンポジウムの締めくくりとして、パネルディスカッションが行われました。本学教授の関先生を司会に、講演者の方々を交え、会場からの質問に答えていただきました。予定が押していたため、十分なディスカッションを行うことが出来ませんでしたが、関先生の進行で聴講者から講演者への質疑が行われ、秋季シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。