平成17年度秋季シンポジウム
仏教文化財をめぐる諸問題



  平成17年度文化財学会秋季シンポジウムは「仏教文化財をめぐる諸問題」と題され、11月12日土曜日に開催されました。

  関連報告として、はじめに明古堂主宰である明珍昭二先生より「彫刻・保存修理の現状」という論題で発表していただきました。最初に、保存修理についての概要を現在の保存修理の礎を築いた岡倉天心の話を交えながら説明され、その後、明珍先生が実際に手がけた修理の例をスライドを用いて紹介していただきました。焼損の例として寛永寺の天界上人坐像を、後生修理の悪い例として石堂寺の千手観音坐像を挙げその修理の過程や苦労など、現場でしか分からない修理の現状をお話されました。

  次に、本学非常勤講師である宗台秀明先生に「出土品に見る鎌倉人の信仰」という論題で発表していただきました。宗台先生は鎌倉の出土品の中でも、特に寺院以外から発掘された遺物に焦点を当て一般の人々の仏教信仰はどのようなものであったかについて考察されました。その中で、都市に集まった人々の中に、現世利益的な観音信仰と地蔵信仰が広がりを見せ、多様な階層にまで拡がっていたことを述べられました。ただし、遺物の材質とその依存率の問題や、呪符・魔除けの札が街中や寺院内から出土している点で、仏像の分布という一面のみではなく、多様な面からのアプローチが必要であると指摘されました。

  続いて、本学大学院博士前期課程2年の蓮池美緒さんから「像内納入品について」と題して発表がありました。蓮池さんは、像内納入品の顕著な例である清涼寺釈迦如来像について考察されました。まず、像内納入品の特徴として五臓六腑の納入を挙げられました。また、清涼寺式釈迦如来像の模刻と納入品との関係について考察され、清涼寺釈迦如来像の伝来から模刻が盛んになるまで時間があり、五臓の納入が見られない像もあることから、模刻の流行と納入品の流行の直接的関係は不明であると述べられました。今後の課題としては、像に生身性を求める方法について東アジアと日本の違いを検討していきたいと述べられました。

  最後に、本学教授の大三輪龍彦先生が「密教法具について」と題して発表されました。先生は実際に密教法具を壇上に用意され、それぞれの用途や由来、一面器についてはその並べ方を説明されました。降臨壇上(仏に降りてきてもらう)にはその並べ方が指定されており、招く仏によりその配置は変化すると話されました。また、密教法具の伝来時期については平安末に唐に渡った8人の僧によりもたらされたという記録があり、そう考えるのが妥当であると述べられました。

  そしてシンポジウムの締めくくりとして、パネルディスカッションが行われました。本学教授の河野先生を司会に、発表された先生方を交え、講演では触れることのできなかったことの補足説明や、会場からの質問に答えていただきました。
  最後に河野先生より、「文化財を勉強する上で注意することは何ですか」と明珍先生へ質問されたところ、「仏の前では頭を下げること」つまり、仏に礼儀をつくすことが大事であると話されました。このことは文化財を学ぶ私たちにとって非常に重要なことで、大変印象に残るお言葉でした。
  このような活発な議論が交わされ、秋季シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。