平成16年度春季講演会
弓矢と刀剣
−武具の過去と現在−


 6月5日の文化財学会春季公演会は、駒澤大学講師である近藤好和先生をお招きしました。
 今回は有職故実の視点から近藤先生の専門である伝世工芸遺品、特に武具である弓矢・太刀・甲冑について、それをいかにして歴史学の資料として扱うかそのあり方と実用論についての講演会でした。
  今回の講演会の内容は、文化財の美術品としての姿と本来あるべき姿に気づかされるものでした。展示されている武具を見展示されていることが真実だと思いがちですが、近藤先生のお話は美術品と実用品の誤解から始まり、其れを原点とした資料論と実用論が主としていました。


 はじめに近藤先生は、伝世工芸遺品(漆工品・金工品・染織品・焼き物・武具・馬具)の多くは現在では美術品として展示され美術鑑賞の対象とされていること。そして、伝世工芸遺品に美術的価値があることは事実であるということを述べられました。
  次に問題提起として、「では、そうでない伝世工芸遺品はすべて伝世工芸遺品ではないか」ということからお話が始まりました。
  伝世工芸遺品は“構造に優れ見た目にも美しいこと”とイコールにはならず、それは美術偏重であり、文化財保護と対立していると先生はおっしゃいました。何故美術偏重は生まれたのか。これについて先生は、「近代から現代にかけて、人の感性が誤って生み出したものなのではないか」という推測をされ、文化財の本来の在り方と現在の在り方のギャップについてお話されました。

 『文化財、ここでいう伝世工芸遺品は歴史的在り方としては実用品であり、その使用されていた時代での根本的な製作目的は当然実用するためである。実用する中で見た目を考え美しい装飾が施されたとしたら、それは実用の後に美術要素がついてきた形となる。しかし現在は美術要素が先立って、実用面は等閑視されている。つまり歴史的在り方と現在の在り方にはギャップが生じており、このギャップこそが文化財保護に際しての対立原因である。』と強く主張されました。

 最後に近藤先生は、美術要素に偏った見方でしか伝世工芸遺品を見られないと、美術要素はないが実用品である伝世工芸遺品を見落としてしまう可能性がある。そしてそのギャップの影響を最大に受け、美術偏重の犠牲になっているのが武具(弓矢・太刀・甲冑)・馬具であると近藤先生は再度強く主張されました。近藤先生の熱意あるアクティブな講演は、初めて学会に参加した1年生のみならず、会場の講聴者全員を熱くさせる講演でした。そして、伝世工芸遺品の受けている美術偏重は、私達文化財学科の学生にとってとても勉強になり、また、考えさせられる講演でした。