平成16年度秋季シンポジウム
古都鎌倉の多角的検討



 平成16年11月13日(土)に行われた文化財学会秋季シンポジウムは、総持寺80周年記念として「古都鎌倉の多角的検討」と題し行われました。まずはじめに、問題提起を本学教授の河野眞知郎先生よりご講演いただきました。河野先生は、今大会の多角的検討という演題に対し、全ての話は切り離すのではなく、総合討論で繋げていきたいと述べられ、また、鎌倉に興味を持っている方や学生には講演を通してこのようなやり方もあるんだ、という参考にしてほしいと述べられシンポジウムがはじまりました。

 今回のシンポジウムは多角的検討という演題から、『文献史学的追究』・『物質史学的追究』・『「古都」の考え方』の3つの視点でそれぞれ発表が行われました。最初に文献史学的追究から、東洋大学講師の細川重男先生より「得宗専制と御内人」という論題でご講演されました。細川先生は、御内人とは何かについて、御内人(得宗被官)は鎌倉北条氏得宗家の被官であるという定義は研究機関内でもイメージがあやふやなことから、「他の北条氏庶家(含.得宗家傍流)被官・得宗家族被官とは区別する必要がある」「御内人の殆どは御家人である」という二点について資料をもとに発表されました。続いて、本大学大学院博士課程前期2年の松吉大樹さんより「得宗被官の研究」という論題で発表されました。松吉さんは、北条小町邸跡若宮大路側溝から出土した木簡の人名記載について、「得宗被官石河氏ではないか」という考察を元に、出土した木簡の詳細とその木簡に記載されている人名が奥州石河氏である可能性を取り上げ、御内人役の存在を推察されました。

 次に、物質史学的追究から本大学大学院博士課程前期2年の古田土俊一さんより「鎌倉所在石造塔に関する一、二の問題点」という論題で発表されました。古田土さんは、「鎌倉に数多く存在する石造塔の研究は、紀年銘塔や完存塔などが研究の対象となっており、その他の石造塔が資料から漏れてしまっている」という問題点をあげ、研究対象以外の石造塔を使用し、磯辺編年表を参考に五輪塔の各部材を細部まで計測、高さと幅をはじめとした特徴の多く表れる部分の比率を算出し、各年代ごとにグラフに表し研究結果を発表されました。

 続いて、本大学大学院博士課程前期2年の星野玲子さんより「岩船地蔵(砂岩石造物の保存処理と経年変化)」という論題で発表されました。石造物の劣化要因は大きく3つに分けられ、その保存対策は複数あるが、石造物の置かれている環境が様々であるがために保存方法の確固としたものがないことを述べられました。このような保存対策の現状を受け、平成13年より約1年かけて行われた岩船地蔵と海蔵寺にある宇賀神の保存処理に関する報告をされました。岩船地蔵と宇賀神の状態は現在でも良い状態を保っている為、現段階では報告した保存処理方法については問題はないものとして、今後も観察を続けていくと述べられました。

 最後の視点として「古都」の考え方から、本学教授の関幸彦先生が「鎌倉とはなにか」という論題でご講演されました。関先生は、鎌倉は中世が注目されるが、その後の近世・近代そして現代の都市としての鎌倉にもそれぞれ意味があるとして、それぞれの時代に関連した地誌・紀行・建造物や史跡を挙げられ、鎌倉の持つ幅広い歴史について述べられました。続いて、東慶寺住職の井上正道住職から「駆け込寺松ヶ岡東慶寺」という論題で、600年以上続いた縁切り寺としての歴史についてご住職独自の視点からとても興味の引かれるご講演いただきました。

 そして最後に、河野眞知郎先生の司会による講演者の方々と講聴者の間で活発な質疑応答(ディスカッション)が行われ、秋季大会のシンポジウムは盛況のうちに幕を閉じました。