平成15年度春季講演会
鎌倉大仏について



 平成15年度文化財学会春季講演は、6月7日土曜日に行われました。今回の講演では「鎌倉大仏について」と題し、京都大学名誉教授でいらっしゃる上横手雅敬先生をお招きし、ご講演いただきました。

 はじめに、鎌倉大仏の造立過程について述べられました。造立過程については不明な点が多く、鋳造開始時期は分かっているものの、完成時期については諸説あり、そのなかから、清水真澄氏や馬渕和雄氏、塩沢寛樹氏の説についてご自身の考えも交えながら述べられました。

 続いて、東大寺大仏と、鎌倉大仏を比較し論じられました。両者の共通点として勧進が行われたことを挙げ、勧進の意義について当時はどのように考えていたか、ということについて話されました。

 次に、「東関紀行」にある木造八丈の仏像は金銅像の原型であったのか、ということについて話されました。ご自身が以前述べられた「関東大仏が東大寺大仏に対抗しようとする限り、木造ではあり得ず、東大寺の同様に金銅像でなければならなかった。木造は暫時の仮説であり、当初から究極的には金銅像の制作が企図されていた」との説は根拠薄弱であるが、途中からにせよ金銅仏にしたのは幕府の意力が感じられ、東大寺(朝廷)に対する対抗意識がうかがえると述べられました。

次に、鎌倉大仏とほぼ同時期につくられた京都の東福寺大仏について論じられました。東福寺大仏は木像で、勧進や一般人の結縁の問題などは権門九条家の寺なので生じなかったことから、権門的な東福寺大仏と超権門的な鎌倉大仏は同一に論じることができないと述べられました。

 続いて、権門体制論と東国国家論についてご自身の考えを述べられました。そして最後に、残された問題として、大仏殿は建築名ではなく寺院名ではないのか、叡尊は北条時頼の依頼で後嵯峨上皇に接近したのか、律の朝廷への進出の問題等を挙げられました。

 「鎌倉大仏について」という今回の講演は、文化財学科に所属する私たちにとって馴染み深く、興味深い内容であったと思います。