平成15年度秋季シンポジウム
国指定史跡永福寺
−鎌倉寺院址の多角的検討−


平成15年度文化財学会秋季シンポジウムは「国指定史跡永福寺−鎌倉寺院址の多角的検討−」と題され11月15日土曜日に開催されました。

 はじめに基調講演として本学教授の大三輪龍彦先生が「永福寺の沿革」と題して講演をなされました。その中では、永福寺の創建から衰退に至るまでの流れを、年表を交えポイントをおさえながらの解説がありました。

 続いて関連報告では6人の方々に発表をしていただきました。

 また、今回のシンポジウムでは、文化財学科の学生が初めて報告を行いました。

 最初に、本学講師で建築史が御専門の鈴木亘先生に「発掘遺構から建物を復元する−永福寺二階堂の復元的考察−」という論題で発表していただきました。はじめに、文献資料に見る永福寺二階堂の記事から、二階建ての堂の例、裳層付仏堂の例の紹介をしていただきました。次に発掘調査による永福寺二階堂の遺構から二階堂の復元をされ、何点かの復元案を紹介し、考察を述べられました。

 次に、本学助手である福田誠先生に「経塚出土遺物を探る『幻の扇』」という論題で発表していただきました。福田先生は、永福寺経塚から発見された扇について、「皆彫骨扇(みなえりぼねのおうぎ)」の現存する最も古い資料であると述べられました。


 続いて、本学教授の中里壽克先生より「永福寺出土螺鈿遺品の螺鈿史上における位置」という論題で、永福寺出土螺鈿遺品を12世紀の螺鈿資料の内で比較され考察を述べられました。発表では、永福寺から発見された計8点の遺品が藤末鎌初の螺鈿の歴史を補う大変貴重な史料であると結論付けられました。

 引き続き、本学大学院文学研究科博士前期課程2年の五十嵐健太さんから「永福寺出土螺鈿燈台の復元」を題し発表がありました。五十嵐さんは、永福寺出土螺鈿遺品の1つ「黒漆地螺鈿燈械残欠」から復元を兼ねた研究調査を行われ、その結果永福寺螺鈿燈台が中尊寺螺鈿燈台よりも約30cm高いこと、製作時期が寿永2年(1183)前後頃から正治元年(1199)或いは弘安3年(1280)までが妥当ではないかと考察されました。


 次に、本学大学院文学研究科博士前期課程1年の長友純子さんから「胎土分析からみた永福寺瓦の産地」という論題で、永福寺出土の瓦の分析結果から尾張産ではないかと考えられている男瓦C類と女瓦F類が尾張さんのグループに属すると、水殿瓦窯産ではないかと考えられている瓦がその可能性が高まったこと、さらに在地産と考えられている瓦がその可能性が高まったことなど、従来の学説を補完する発表をされました。

 そして最後に、本学前学長で総持寺宝物殿館長の納冨常天先生に「初期永福寺の仏教思想」と題し発表していただきました。お話では、初期永福寺における仏教思想の動向は天台宗寺門派の台密を中核にするものであり、また、永福寺が鎌倉時代の仏教発展期における先駆的地位にあったとお話されました。

 現在、国指定史跡である永福寺では国有地化が進み、指定面積の約80%が国有化され着々と史跡公園化に向けて前進していますが、文化財保護行政はいまだ厳しい状況にあり、これらの貴重な文化遺産をどのように後世に伝えるのか我々は考えなければならないでしょう。