平成14年度秋季シンポジウム
中世の夾纈(きょうけち)
−鎌倉出土の板締染め型板をめぐって−


平成14年11月16日土曜日に文化財学会秋季シンポジウムが開かれた。今回は鶴見大学文化財学科が保存処理を行った若宮大路遺跡板染め型板を中心に「中世の夾纈−鎌倉出土の板締め染め板型をめぐって−」と題して行なわれた。

 はじめに基調講演として、日本女子大学教授、小笠原小枝先生に「若宮大路遺跡発見の「板締め型板」が語るもの」という論題で御講演いただいた。最初に夾纈と板締染めの違いや夾纈の原理や特色についてスライド等を使い説明していただいた。また型板に描かれている四本懸りの文様について、その中でも特に桜・柳の形式や様式が鎌倉の雰囲気を伝えていると指摘されるとともに、鎌倉時代における蹴鞠装束にもふれられた。
  これまではこの時代には糊染めが発達し、板締染めは用いられていなかったと考えられていたが、今回の型板の発見で板締めの存在も改めて考えなければならなくなったと言及されました。また、使われなくなった型板は燃やして処分されることが多く、染織において道具の発見は非常にめずらしいことで、染型としては最古の資料であろうと論じられた。
  最後に、今回の型板がどのようにして今日まで残ったのか、またたった1枚の型板の断片であるが染職史を考えるうえで、どれだけ大きな新しい光を与えてくれたか、等を述べられ、やはり物の発見には貴重な情報が多く含まれていると締めくくられた。


 午後からの関連報告ではまず、板締染め型板の出土した若宮大路周辺遺跡群の発掘団長を務められた本学教授、河野眞知郎先生より「板締め型板を出土した遺跡〜その時代と性格の考察〜」という論題で発表いただいた。先生は遺跡の倉屋敷の性質や型板の出土状況から年代の特定が困難であることを述べられた。また、鎌倉出土の遺物で様々な文様が施されている物を類例として挙げられ、鎌倉期の文様の多様さを論じた。
  次に本学教授、永田勝久先生より「板締染め型板の保存処理」という論題で発表いただいた。木製品の保存処理法についてご説明いただき、本資料をPEG含浸法を用いて処理した経緯を述べられた。
  続いて、染色家で本学非常勤講師の原田ロクゴー先生より「若宮大路遺跡発見の『板締染め型板』の染め技法解明」という論題で発表いただいた。先生は、京紅板染めの技法と比較・検討されながら、今回の板締染め型板の厚さや材質に着目され、その染色技法について論じた。
  最後に本学教授、関幸彦先生より「蹴鞠の史料学」という論題で発表いただいた。様々な文献史料から、板締染め型板の文様となった、4種の木々とその方位が定着した時期は13世紀末であることを述べ、今回の型板は文献史学の立場から、それ以降の年代の制作である旨を論じた。
 
  そして、今大会の締めくくりとしてパネルディスカッションが行われた。本学教授、大三輪龍彦先生を司会に発表された5人の先生方を交え、講演では時間内でふれることの出来なかったことの補足説明をはじめ、外部から来場された光華女子短期大学名誉教授の野上先生が京紅板染めとの比較から、本学教授の中里先生が文様の性格からなどから意見を述べ、活発な議論が行われ、秋季シンポジウムは盛況のうちに幕を閉じた。



<板締め型板の版木>


色・形を考えるにあたり、型紙を用いて染色してみました。
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