平成13年度春季講演会
文化遺産としての雅楽

 平成13年度、文化財学会春期講演会は、6月2日土曜日に『文化遺産としての雅楽』と題して開催されました。

今回は、上野雅楽会の皆様と東京学芸大学専任講師の遠藤徹先生をお招きしました。従来の大会とは趣向を変え、前半に上野雅楽会の皆様による生演奏、後半に、遠藤先生の講演という二部構成で展開されました。

 始めに、上野雅楽会の皆様による演奏が行われました。楽曲は『越天楽』で、雅楽といえばその名前が頭に浮かぶほど有名な曲です。
雅楽の管絃の編成は、三管と呼ばれる、笙(しょう)・篳篥(ひちりき)・竜笛(りゅうてき)をそれぞれ3人の計9人。両絃と呼ばれる、琵琶・箏(そう)を2人づつの計4人。三鼓と呼ばれる、羯鼓(かっこ)、太鼓、鉦鼓を各1人づつの合計16人により構成されています。

 『越天楽』の演奏が終わると、続いて舞楽『蘭陵王』が行われ、舞手を文化財学科4年生の野田知宏さんが担当しました。『蘭陵王』は北斉の王長恭という顔の美しい人物が、戦場での兵士の志気を高めるために仮面をつけて戦いの指揮を取り、大勝利を得たのでこれを喜んだ部下が作ったものだと伝えられています。『蘭陵王』の余韻をそのままに、舞台の上を所狭しと舞が披露されました。



 雅楽というものを十分実感したうえで、遠藤先生に『文化遺産としての雅楽』という題で御講演いただきました。講演の主旨としては三つに構成され、1つ目は雅楽中心の日本音楽史について述べられました。シルクロード以西の音楽と諸アジアの音楽が中国で融合し、日本へ伝来してきたという雅楽の発生、日本での雅楽の発達と変化という歴史的変遷についてです。2つ目は文化遺産という視点から現在の雅楽について述べられました。日本に伝来し、現在のような形となっていった雅楽の系統と種類を映像を通して丁寧に解説頂きました。そして、最後に雅楽の現状の問題点と将来について述べられました。楽家により口伝という形で、代々伝承されてきたこと。衣装、楽器、面を作る技術の担い手の問題です。また、今日の宮内庁雅楽部の人員が26人と演奏を行うのにギリギリの人数しかいないという事実を危惧していらっしゃったのが印象的でした。

 今回の春季大会は演奏の後に講演を行うという従来の形にないものであったように思います。しかしそれは、大変、文化財学科らしい構成だったといえるのではないでしょうか。